短い恋
麗奈の激しい嗚咽が始まると同時に、早川のまぶたからも大量の涙が溢れ出た。早川はそのとき、初めて麗奈を抱き締めた。だが、彼女は既に遠い存在になってしまっている気がする。今日の残りの僅かな時間と、明日麗奈を彼女の住まいへ送り届けるまでの時間。それだけが、二人に与えられた愛の時間なのだと思った。
森の中のバンガローの傍の調理場では、大勢の若い男女がわいわいとはしゃぎながら、野菜を刻んだり、米を研いだりしていた。聞こえて来た今夜のメニューの情報は、カレーライスだということだった。
早川と麗奈が料理を手伝いたいと申し出ると、トップスピンのリーダーは、人数は足りているから温泉にでも浸かりに行けと、冷たい口調で云った。早川は何本もの包丁が激しく動いているのを見ると、危機感を覚えた。誰も怪我をすることなく、やけどしたりせず、無事に調理をしてもらいたいものだと思った。
そこから日帰り温泉までは徒歩五分。早川は黙ったまま麗奈と手をつないで歩いて行くと、あっという間に着いてしまった。
露天風呂で彼は、やりきれない孤独感に襲われた。方言が見えない仕切りを立てている気がして、そこに居た地元の人たちの会話には入れなかった。
湯船から清流を見下ろせるのは良いが、温度が意外に高めだったので、彼はそそくさと出て来てしまった。