短い恋
漸く出会えた理想の女性、それが麗奈だった。最終セットの最終ゲームで、相手のサーブゲームをブレイクしたつもりだったのに。ダウンザラインに決めた筈の会心のショットがアウトになってしまった。そんなときの気持ちに似ていた。
「昨日、帽子を被った黒いスーツの紳士から、インタビューされたね」
「えっ!そのことはわたしとライターさんと、関係者しか知らない筈よあっ!そうよ。あのライターさん、確かに帽子を持っていたわ」
麗奈は眼を丸くした。彼女のその表情を見ると、早川は中学生だった頃の彼女を思い出した。
「悪いね、あの人を駅の近くから乗せたのが、この私だったというわけ」
「そうだったの!でもね、わたしの夢は学さんと結婚することなの。映画がヒットしたら有名な女優になってしまうかも知れないわ。そう思うと、死にそうなくらい辛いわ」
早川は真っ白な頭の中で思いついた、つまらないジョークを口にした。
「麗奈さん。芸能人になってヘンな薬をのまされないように、気をつけてね」
そんなことで自分が屑折れることを、回避できると感じたのかも知れなかった。
「学さん。そんな風に茶化せばわたしが笑うとでも思ったの?哀しいわ」