短い恋
別れの予感
夕闇の迫る気配が、静かに近付いていた。周囲の蒼い山並みのところどころには、灯りが幾つかともり始めている。塒へ帰る夥しい数の野鳥の群れも見えた。そのテニスコート横の未舗装の駐車場で、エンジンを停止したばかりの白いワンボックス。
その中の二人からは、フロントグラス越しに里山の緑の横溢が窺われ、そこには更に黄昏の予感が色濃かった。
「わあ、窓を明けたら空気が全然違うわね。来てよかったわ」
麗奈はそう云ってから、ずらりと並んだひまわりの花を小声で数え始めた。その声があまりにも可愛らしいので、いつまでも聞いていたいと、早川は思った。
麗奈の傍で過ごせるのは、とりあえず今日と明日だけ。そのあとは皆目見当もつかない。
「いつも仕事が終わると、売上の現金を確かめるんだ。そのときはちょっとスリルがあるよ。お客さまに騙されたことがあるから……」
「そうなの?でも、不動産屋だってそうかも知れないわ……でも、いまどきマニュアル車なんて……左足が痛くなったわ」