短い恋
明日使用するテニスコートは、全天候タイプという話だった。明日の予報は晴れだから、午後からは問題なくプレーすることができるだろう。溜まった雨水の除去作業は仕方ないとして、心配は久々のハードコートによる足のダメージである。だが、麗奈の可愛い顔が脳裏に浮かぶと、そんなことはたいした問題ではないと思い直した。
雨脚が更に強くなって来た。
「凄く降って来ましたね。お客様は幸運な方ですね」
「今日はそうかも知れませんね。これから多分、新星のごとく現れた美人女優候補に会えそうなんです。ツキがあるみたいだから、会えそうだな」
「鉄板です。今日は最高の一日になりそうですね」
「大袈裟ですね。インタビューをして記事を書くのが私の仕事なんです。これから会うのは、映画の大役に抜擢された殆ど素人の新人女優だから、下手をすると口が重くて記事にならない場合もあるんですよ」
唐突に後方からクラクションを鳴らされ、早川は心臓が止まりそうな程驚かされた。乗客と話をしていると速度が落ちてしまうの場合があるのだが、この大雨の中でクラクションを鳴らすのは、精神に問題があるとしか思えない。