短い恋
駅の乗り場へ連なるタクシーの列のその恐るべき長さは、長引く不況の長さでもあり、規制緩和なる魔物の犠牲者たちの、苦渋の選択の結果でもあった。四十分以上もの悲惨な空白を回避できた幸運を喜びながら、早川は身体を捻って乗客に笑顔を向け、挨拶した。
「ありがとうございます。乗務員の早川と申します。シートベルトをお願いします。お客様の目的地はどちらでしょうか」
告げられた行き先のその一流ホテルまでの、予想される料金はおよそ三千円というところだろうか。
「乗り場はずーっと先ですからね。こんなところから乗り込んで来てごめんなさい」
「とんでもございません。大歓迎です。四十分以上も並んでワンメーターということが多いので、助かりました」
早川がゆるやかに車を発進させると、ほぼ同時に大粒の雨が、まるで滝のように叩きつけて来た。
「間一髪、ずぶ濡れになるところでしたよ。本当に私も助かりました」
早川は車を運転しながら明日のことを考えている。