短い恋
松の内を過ぎたばかりだった。家業の精密板金製造会社が倒産したのは、前年末のことだった。三台あったターレットパンチは、高額の負債の弁済のために運び出され、工場も住まいも競売ということになった。
早川はニートになった。漫画喫茶で様々な雑誌を見ているうちに、彼は広告業界に興味を覚えた。保証人をでっちあげてなんとか就職し、グラフィックデザイナーの見習いということになった。しかし、その印刷会社も間もなく倒産した。
就職難の中で絶望の日々を送っていた早川は、無料求人誌のお陰で、無料の住居に入ることができた。
そこは廃家電回収業者の倉庫の二階で、電気製品には不自由することがなかった。軽トラックでの不要なテレビなどの回収という仕事は、拡声器がうるさいのと、重いものを運ぶこと以外に辛いことはなかった。但し、不況下で増殖する同業者と、曲り角ごとに気まずく顔を合わせることが日増しに多くなって行った。
早川はタクシーの乗務員になった。普通自動車二種免許を、転職先のタクシー会社が取得させてくれた。ありがたいことに、前渡しの生活援助金というものも支給された。回収業のときに彼は僅かながら貯蓄もしていたので、それらを足して賃貸マンションに入居することができた。