花火
相手の男性はそれは遠い遠い親戚で、歳が9つ離れているらしい。
凪もほとんど会った事がないのだそうだ。
「ばあちゃんがあたしを必死に説得する顔を見てたらさ……孝行らしいことできなかったし、彼氏も好きな人もいないから、いいよって言っちゃった」
凪は天を仰いで、寂しそうに笑った。
「留学したかったなあ…。あはは、言ってもしょうがないよね」
苦笑する凪の目元は真っ赤にはれていて、眉毛は情けなく垂れ下がって、見ていられなくなってしまって、
思わず抱きしめてしまった。
「涼……」
声が震えている。凪が泣いているところなんて数えるほどしか見たことが無かった。
「…あたしね、涼がすきなんだよぉ……」
ああ、そうだ。本当はこうしたかった。俺も本当は凪が好きだったんだ。
だけどわかったのが今頃じゃ遅すぎる。どうせならもっと早くに気付くか、一生見失ったままでいたかった感情。
口は勝手に本心を語り始めた。胸の鼓動が大きすぎてうるさかった。
「俺、一回だけ…いや、何回か…。凪を好きになったことがある」
「え…?うそ…聞いてないよ?」
「幼なじみだったしよ…なんかハズくて、言えなかったんだ」
凪は震えている。胸が熱い。凪の体温が伝わってくる。だから、さらに腕に力を込めた。
「だから、気持ちを嘘だと信じ込もうとして、本当の気持ちを見失った」
「どうして自分に嘘ついたの…?」
涙が俺の浴衣にしみる。じんわり温かくて、すぐに冷たくなる。
一粒、また一粒。花火みたいだ。
凪の言葉が俺を貫いて、後悔ばかりが募って、俺まで泣きだしそうだった。
「あたし、ずっと涼を待ってたのに……」
ずっと一緒だったふたり。
お互いがお互いに知らないことなんて何も無かった。
何も無かったはずなのに。
涼の目からもまた涙が流れた。