花火
ヒューーー…… どんっ! ぱちぱちぱち……
花火の音で我に返る。ああ、始まった。今年最後の花火。
大きな音とともに色が爆ぜて、鮮やかに光って消える。
いつ何度見ても、やはり花火は美しいなと思う。
朝顔のように開く花火を見ると、何年たっても凪を思い出す。
ああ、凪は実家に帰ってきたりしていないのだろうか。
旦那か、あるいは子供をつれて花火を見に来たりしないのだろうか。
ないかな、ないだろうな、きっといない、
もし会ったら、十年前の続きを言えるだろうか。
まぶたの裏に、凪を浮かべている。いまでもこんなにリアルに思い出せてしまう。
途切れた夢の続きがほしい。
いつの間にか、人ごみの中に凪を探していた。十年前の、高校生の頃の凪を。
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今年最後の花火になった。
人ごみをかき分けて、朝顔の水色の浴衣を探した。
夢の続きが、まだどこかでつながっていてくれると信じた。
今年最後の花火が鳴っているなか、必死でイギリスに留学した凪をさがしていた。
頼りなく揺れる水色の浴衣を何年も何年も思い出していた。きっとこれからも、思い出してしまう。
今年こそ一緒に帰ろう。あの道を、また二人で帰ろう。そしてやり直そう。
「凪!」
今年最後の花火になった。
花火にかき消されながら、名前を呼び続ける。
毎年この季節になると考えていたんだ。
今年こそいないかな。ないよな。きっとない。なんて思ってた。
あえたら運命だな。ぼんやりしたまま。
女々しい。なあ凪。昔みたいに、男みたいに、女々しい俺を叱ってくれよ。
今年最後の花火になった。
ヒューーー…… どんっ! ぱちぱち……
ヒューーー…… どんっ! ぱちぱち……
ヒューーー…… どんっ! ぱちぱち……
花火の音が聞こえなくなった。
川辺に密集していた人々は、次々に帰路につく。
今年最後の花火は、終わった。
帰っていく人々の顔を探してみたけれどいない。見つからない。凪はきていない。
ああ、あたりまえか。いるわけないよな。ないってわかってたのに。
どうしてこんなにわけがわからない気持ちがあふれてくるんだろう。
ああ。もうあの頃には戻れないと知ったからだ。
止まっていた時計が、かち、と進みだす音が聞こえた気がした。
最後の花火が終わったら、俺は変わるだろうか。十年前の自分がやっと変わるんだろうか。
胸がすりむけたように痛んだが、静まり返った帰り道を一人で歩き続ける。
ああ、今年も綺麗な星空だ。
きっと君も見てるだろう、この同じ空を。