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世界の果てから、はじまる物語

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それから駅の近くの駐輪所から鍵の付いていないボロボロの自転車を頂戴し、二人乗りをしながら息を切らしながら遠くまで行った。

もう何年も前に持ち主を失くした自転車はぎこぎこと音をたてたが、そんなことはもう気
にならなかった。俺は何年ぶりかにわくわくしていたし、彼女も笑っていた。

「なあ、ここの近くに流星が落ちてそうな場所しらねぇ!?」

「どんな場所ですか!?」

「うーん…なんか、立ち入り禁止とかで、あんまり人が知らなさそうなところ!」

「じゃあ…あそこかなあ?」

「どこ?案内して!」

「あ、そこ、右です!」

「うそっ!」

急いでハンドルをきり、曲がる。

「危なかったね、大丈夫?」

「大丈夫です!それより前見て下さい!」

電柱が目の前に迫る。ぶつかる寸前でまたハンドルをきる。

「うおっ、ありがと。そこってどんな場所なの?」

「なんか…川みたいな場所っていうんですかね?

わかんないけど発電所があるらしくて、フェンスに囲まれてて誰も近づかないんです」

「いいじゃん、流星ありそうありそう!」

自然と笑みがこぼれてしまう。こんな笑顔はしばらく忘れていた。いじめられていることなんて忘れていた。この子と一緒にいれば、なんでもできるような気がした。

自転車をひたすら漕いで、道案内の通りに進み続けた。どれくらい漕いだのだろう、もう
あたりは暗くなっていた。

「な、まだなのか?」

「この急な坂を降りたら、その場所です!」

「お!よし、行くか!」

思いっきりペダルを踏み込んで、坂を勢いよく駆ける。

「ちょ、ちょっと怖いです!早すぎませんか!」

「大丈夫、大丈夫。怖がりだなぁ」

びくびくしながら俺の背中に掴まる女の子が可愛らしくて、笑いながらブレーキをかけ
た。

「えっ」

「どうしたんですか?」

「ぶ、ブレーキが…きかねえ」

何度もかけてみるが、やはり止まらない。両足でブレーキをかけようとするが、勢いがつきすぎてどうにもできなかった。

「え、やだ、嘘!死んじゃいますよ!」

「は、歯をくいしばれぇぇ!」

「きゃあああああ!」

そこからはふたりとも目をつぶって、なにが起こったかわからなかった。

気付いたときには自転車から放り出され、アスファルトにぶつけた身体があちこち痛かっ
た。

「い、痛いよぉ…。なんなんですか、もう…」

女の子は芝生に投げ出されたようで、血は出ていなかった。立ちあがったところを見る
と、骨も大丈夫らしい。

「おー、悪い悪い。全然気付かなかったんだよ」

「死ぬかと思った…。てゆーか死んだ…」

「大丈夫、お前は生きてるよ」

俺もなんとか立ちあがって、服の汚れをはらう。

「あれ…?」

女の子は自分の立っている芝生の先、フェンスの向こうの発電所を見つめてぼーっとしていた。

「ん、どうかした?」

「あれって…流星、なんですかね?」

「え?」

フェンスの向こうに流れる川に、なにか大きなモノが落ちていた。

流れをせき止めるように川の真ん中に居座るそれは――。

「どう考えても、粗大ごみの山ですよね…?」

粗大ごみかどうかは暗くて定かではないが、流星ではなかった。

自分たちがみたあの星の正体はなにかわからないが、幸せになれるとか死んでしまうと
か、きっと噂のひとり歩きだったのだ。

流星の正体もヘリコプターとか衛星とか、そんななんでもないものなのだろう。

「ははっ、なんじゃこのオチは。なにを必死になってたんだろうね」

「…そうですね。結局、流星みつからないし」

二人で呆然と、わけのわからない塊を眺め続けた。

そして、なんだか沈黙が重苦しかったから、冗談みたいに大声を出す。

「ほら、はやく!願い事言わないと、星が消えちまうぜ!」

女の子は驚いて肩を震わす。そして二人で顔を見合わせた。

「なんちゃって。物語の続き。へへへ」

俺が笑うと彼女もつられて笑って、そうですね、ってふわふわの髪を揺らして大きく頷いた。

「なに叫ぼうかな…」

「おう、なんでもいいよ、叫べ!」










「……あなたと、同じ、高校に行けますように!」

え?

「一緒に登校できますように!」

あれ?

「同じクラスになれますように!か、彼女になれますように!」

……あのよ、それって願い事か?
こういうのってもうちょっと夢のあることとか、叶いそうにないことをお願いするんじゃねえの?あれ?なんだこれ?ちょっと流れが変になってねぇ?

ああ、でも俺もなんだかんだで嬉しいけど。なんか顔がにやけちまう。

よかったね、俺ら両想いみたいだよ。言ってやらねえけど。







「じゃあ、年越して、三月になったら。山高で待ってるから来いよ」

「はい、行きます。星は絶対に掴むんだから」