姉、そして妻と娘
『姉、そして妻と娘』
「ねえ、お姉ちゃん、もう帰ろうよ」
「ちょっと待ちなさいよ、今帰っても、叔父さんと叔母さん、忙しいでしょ」
葉子(ようこ)は小学四年生、拓也(たくや)は小学一年生。
この姉と弟は、半年前から叔父さんの家にお世話になっている。
その初めての夏に、二人は家の近くで催されている花火大会を見にきた。
大きな川の上に広がる真夏の夜空。
今そこに赤や青の大きな花火がどーんどーんと弾けている。その煌(きら)びやかな輝きが、幼い姉と弟の頬を染めていく。
しかし、拓也はきっとまだ幼過ぎたのだろう。そんな美しい光景のすべてを理解できない。
「ねえ、お姉ちゃん、もう帰ろうよ」
拓也は駄々をこねるように、もう一度姉の葉子に言った。
しかし、葉子にはわかっている。
「拓也、帰っても仕方ないでしょ。お父さんもお母さんも、もういないんだから」
葉子と拓也。
この二人の父は三年前に病で倒れ、無念の中で逝ってしまった。そして不幸にも、母は半年前に交通事故で、この世を去ってしまったのだ。
この姉と弟は二人ぼっちで残されてしまった。
そして、叔父と叔母の家に引き取られ、今暮らしている。