奪われた過去
「それはもう、凄く気に入りましたよ。嘘ではありません……驚いています。ゆかりさんは、どなたかと結婚するので、退職をするということでしたね。その相手が、実は僕だったということですね。ちょっと信じがたいことですが、それで間違いありませんか?」
「わたしね。勤め先の仲のいい同僚から、緒方さんを繰り返し薦められていたし、写真も見せてもらっていました」
緒方は気絶しそうなくらいに驚いていた。
「そ、その、ゆかりさんの同僚って、誰ですか?そのひとの名前を教えてくださいよ」
「……杉原美緒さんです。緒方さんは、絵が上手なんですね。美緒ちゃんのところで見せて頂きました……あと、緒方さんは明日有給休暇にしてくださいって、営業の大木さんの家に電話して、お願いしておきました……出しゃばりで、嫌われたかしら」
恐ろしくなるような偶然だった。杉原美緒というのは、かつてはお下げ髪の美少女で、緒方の恋人だったことのある女性だった。
緒方はゆかりを出しゃばりではないと思った。
「いえ、あの声を聞かなくて済んだ訳ですから、感謝しています……ゆかりさんの声と性格には惚れこんでました。お母さんは美人だったし、お父さんはなかなかの二枚目でした。
だから、当然の結果なんですね……じゃあ、夕食は一緒ということですね?」
「わたしは母のように美人じゃなくて、申し訳なく思っています……夕食は、両親も一緒にお願いします」