小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
マナーモード
マナーモード
novelistID. 29058
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

奪われた過去

INDEX|39ページ/44ページ|

次のページ前のページ
 

仕切りの向こう



 直径二十センチ程の丸太二本を並べ、しっかりと針金で縛ってある。それが、橋なのだった。長さは十メートルに近いものである。大雨が降れば、流されてしまうかも知れないと、緒方は思った。そこを渡るのは、かなりの勇気が必要だとも思った。
 渡り始めると、上流へ向かって勢いよく、自分が滑りだす感覚に襲われた。足の痛みのために、バランスを崩して橋から落ちそうになった。何度かそういうことがあったものの、とにかく無事に渡り切った。渡り切ってから倒れた。
そのあとは余り起伏もなく、沢筋に沿って続く路を歩いた。ひどく蒸し暑い中、二時間近く歩いたかも知れない。汗が下着まで濡らした。
 いつの間にか流れから離れ、眩い積乱雲を視野に入れながら彼は歩いた。たい肥の匂いの農耕地から、竹藪の中を直線的に歩いたり、直角に曲がったり、急な坂を下りたりした。更に防風林に囲まれた農家や、牧舎、神社などの近くを、極彩色の地図で確認しながら歩いた。
 汗で全身が濡れた状態のまま、温泉旅館に辿り着いた。モルタル二階建ての、しかし、丁寧に仕上げられた建物という印象だ。和風料理の匂いのする玄関には、複雑に絡み合う樹の根を磨いて光らせた大きな工芸品が置いてある。額に入った横書きの書や、風景写真などがいくつも壁に飾られていた。
 物音ひとつしない奥に向かって、緒方は「ごめんください」と声をかけたのだが、そんなとき、彼は緊張して、声が出なくなってしまうのだった。柱時計を見ると、最終バスは出たばかりだと判った。
軽自動車のエンジン音が聞こえたような気がした。そのあと少し経ってから、男の声が背後から来た。
 
作品名:奪われた過去 作家名:マナーモード