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奪われた過去

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 その晩遅く当事者同士は、電話で対立した。双方とも約束の時刻に約束の場所へ赴いていた。緒方は長時間の云い争いの中で、商店街の手前側の死角を相手が歩いてきたために、発見できなかったことに気付いた。彼が座っていた席の真下を相手の女性が通過したので、見えなかったのだった。店内には観葉植物が多数置かれていたことも災いした。
 人は路の中央を歩くとは限らない。その日は、そんな単純なことを理解するための一日になってしまった。
 直径一メートルに近い倒木が、路を塞いでいた。それは右の斜面から、水声を沸き立たせながら、左を流れる渓流に向かって倒れていた。枯れ果てた葉と末端の枝が、急な流れに弄ばれている。太い幹と地面との間には、四十センチ程度の隙間がある。だが、緒方はその隙間を通り抜ける気にはならない。押し潰されることも懸念されたが、地面を這って行くということに嫌悪感があった。
 太さ一メートルの倒木が登山道を塞いでいても、それを放置しておくというのはおかしいと思うが、少なくとも数年前からそのままという印象だった。右手の急斜面を登って迂回するなら、忌わしい藪漕ぎを伴う。だから、倒木の上を通過するしかない。それは足を傷めてなくても簡単なことではない。肩の高さの障害物を超えることになるのだ。
 荷物と杖の枝を倒木の上に置き、何度も失敗しながら漸く右足のジャンプ力だけで樹の上に上がり、彼は腹ばいになった。右足だけで下流側の地面に着地すると、右足に少し痛みを覚えながら地面に転がった。そのまま少し休んでから立ち上がり、荷物と杖を倒木から下ろした。
 
作品名:奪われた過去 作家名:マナーモード