奪われた過去
「緒方。お前は文章で食えるんだからな。努力すれば必ず報われるんだから。いざとなったら、それを思い出せ。いいな!」緒方はどんどん落ちて行く。もうすぐ、夢が終了する。
人が夢を見なくなったとき、どのような変化が訪れるのだろう。
緒方は再び強烈な光線に晒されていた。
「おやすみだったかしら……ごめんなさいね。お酒を持って来ました」
明らかに酔いのせいで、ゆかりは声の調子を変えていた。持っているのは懐中電灯と、三合くらいの、日本酒が入っているらしい瓶である。彼女は紙コップも持参して来た。足元も微かにふらついている気配。はっきりとは見えないが、気配があった。
「その足にお酒は良くないでしょうね。わたし、ばかみたい」
「眩しいから、向きを変えてください」
「そうでしたね。ごめんなさい、ここに置きますね」
岩の上に置かれた懐中電灯の光は、少し離れた灌木を照らした。
「せっかくだから、少し頂こうかな」
「そうですか。叱られると思っていたの。嬉しいわ。はい」
紙コップを受け取ったが、注がれたのはほんの僅かだった。
「怪我しているんだから、あんまり呑み過ぎてはいけませんよね」
「だけど、これだけじゃ、殆ど拷問ですよ。舐める程も入ってない」
「じゃあ、好きなだけ呑んでください」
瓶を渡されたときに、手が触れ合った。
「……」