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奪われた過去

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 仮にどれ程話好きな人間がそこに居たとしても、語ることばはないかも知れないと、緒方は思った。ゆかりの心は、どのように反応しているのだろうか。語り合うことばはなくても、心の中は、共通のもので充たされているのだろうか。黙って同じ風景を、二人で眺めていた。同じ感動に、打たれていた。
「ここに集まったのは、どんな理由かしら」
「佐井さんに見せたかったから……」
 緒方は今の孤独と、昨日までの孤独を、寂しさを感じながら、そこを去った。
 体裁としては林道と呼べるような、コメツガの多い樹林の中の砂利道が、右に左に大きくカーブしながら続いている。右下の方向から、明らかに沢音が、遠くなく聞こえる。気のせいかも知れないが、水の匂いも感じられた。見上げると木の間越しに、極彩色の空が拡がっていた。茜色というのだろうか。鮮やかな蒼い空を背景に、濃いピンク色の鱗雲が、高速度撮影のような勢いで流れて行く。
 一時間後、幅五メートルの砂利道が、高さ百メートルの岩盤に激突し、消滅していた。絶句。
 途中で道路が途切れているところは、決して珍しくない。国道を行くと、途中からが石段になっていた、というところもある。都会のど真ん中でも、行き止まりは少なくない。
  
作品名:奪われた過去 作家名:マナーモード