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時夢色迷(上)

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にこっと笑って陽幸が手を出すと、頷いて陽幸の手を握り、走り出す。さっきまでの、泣きそうな顔が嘘のようだ。年相応の、無邪気な笑顔に戻る。横の陽幸は、もう少し大人っぽくならないかと思えて来る、まぁ、そこも彼の良い所なのだと、思ってしまう。現に、今にも泣きそうだった美夏の顔に、花畑のような笑顔を咲かせた。
「それにしても……本当に、あれは何だったのかしら……」
無邪気に走り回る二人を見ながら、さっきの美夏の周りに出ていた色を思い出す。確かに、白の景色に色がついていた。
「まさか……ね? きっと疲れてるのよ」
口に出して言う事で、自分を納得さっせる杏香。でも、何処かで確かに見たと主張する心があった。
「あんちゃんも、一緒に遊びましょうよ!」
陽幸が笑顔でそういうと、美夏もこくこくと頷いて笑う。
「みーちゃんね、あんちゃんともね、あそびたいの!」
トテトテという擬音が良く当てはまるであろう走り方で、杏香の元へと走ってくる美夏。微笑むと、杏香も美夏の方へと歩き出す。
「じゃぁ、何して遊びたい?」
杏香は、しゃがんで目線を合わせ、そう問いかける。
「おにごっこ!」
「鬼ごっこ?」
「うん! おにごっこするー!」
にっこりと微笑んで杏香が美夏の頭を撫でてやると、にぱっと笑う。
「じゃぁ、最初の鬼は私がやるわ」
杏香は、手を叩きながらカウントダウンを開始したので、美夏と陽幸は公園の端まで逃げる。
「さてと……いっくわよ!」
加減をしながら走り出す杏香。とりあえず、美夏を追いかけてみる。
「あーきたぁ!」
ニコニコと楽しそうに笑いながら逃げる。
そんな、美夏の周りがさっきよりも一層広い幅で色がついた。
杏香は、がしっと美夏の腕を握る。
「あんちゃん?」
本人は気付いてないらしく、いきなり自分の腕を握ってきた杏香を不思議そうに見る。
「あっ!おにさんのこうたい?」
いーち、にーいと、美夏はどんどん数えていくが、その腕を離すことが出来ない。
「あんちゃん?はなしてくれないとね、おいかけられないの」
「え……あぁ、ごめん……」
見上げながら聞いてくる美夏に、思わず離してしまう。
「ひさくんまてー」
「待ちませんよぉ」
楽しそうに走り回る二人を見る。美夏の周りは……いや、周りだけ、色が付いている。それは、先ほどと変わらない。
(あれが見えているのは、うちだけ?……色が付いて嬉しいはずなのに……)
色が戻ってほしいと思っていた杏香だが、いざ色が付くと、何故か奇妙に思えてきてしまう。
「どうなっているの……」
返事はない。誰かに聞いたわけでもない。だから、答えも出ない。
「あんちゃん!」
いつの間にか、杏香の前に立っている美夏。
「あそべっるて、たのしいね!おそとって、いいね!」
今まで見た美夏の笑顔の中でも、一番輝いている笑顔。もしかしたら、実際に光を放っていたかもしれない。
「「みーちゃん!」」
陽幸と杏香が一緒になって叫んだ。それもそのはず。美夏の体は、光に包まれていく。それと同時に、色のついていた範囲は狭くなっていく。
「みーちゃんはね、あんちゃんとね、ひさくんていう、いっぱい『ともだち』ができたの!」
美夏は、最後に笑いながら言うと、光に包まれて消えていく。
「どういうことなのよ……全然意味わかんないじゃない!」
ぺたんと、白い地面に座りこむと、こぶしをつくって地面を叩く杏香。
「みーちゃん……二人は、沢山じゃないのよ……」
悲しげに呟いて、美夏の立っていたところを見る。そこには、黒色と茶色・緑色をした、大きなサイズのビーズが転がっていた。
「これ……」
「使う、と、良い」
いつの間にか、天使が二人の近くに立っていた。単語だけで話していた天使の言葉に、ぶつ切りだが、助詞が入った。
「これ、を、使う、と、良い」
ビーズを拾うと、杏香の前までやってきて差し出す。
「使う……?」
「あんちゃん。ビーズを受け取って、みーちゃんの事を思い出してください」
陽幸は、天使の横まで行くと、悲しそうな笑顔を作って杏香に言う。言われた通り、ぎゅっとビーズを握る杏香。
三秒位経っただろうか。
「みーちゃん……」
そんな、杏香の小さな呟きとともに眩しすぎる光が広がった。
光が無くなった頃あいを見て目を開けると、杏香は自分の目を疑った。
「うそ……さっきまで……なんで……」
突然の出来事に、杏香の頭はついていかない。
――白の空間に、黒と茶色と緑がついている。
白色だけの世界も不気味だったが、今も十分に不気味だ。黒色のおかげで影ができ、茶色のおかげで地面になり、緑のおかげで葉っぱになった。だが、その三色以外は白のまま。
「色……ついたね」
「みーちゃん……みーちゃんはどうなったの!」
放心したままの杏香の服の裾を引っ張る陽幸。その腕を掴む。
「あんちゃん……い……たい……」
杏香は、我を忘れていたらしく、かなりの力で陽幸の腕を握った。
「ごめん……でも、みーちゃんが」
陽幸の手を離す杏香。陽幸は少しだけ握られた場所を撫でると、杏香を泣きそうな目で見た。
「彼女、なら、居るべき、世界、に、帰る、た」
天使から紡がれる言葉。二人にとってそれは、嬉しくも悲しくもあった。
「そう……帰れたの?」
そう、杏香が聞くと天使は小さく頷く。
「あんちゃん!」
珍しく、真面目そうな顔をして杏香を呼ぶ。
「いつかまた、きっと……絶対に会えますよ!」
そして、また太陽のような笑顔に戻る。
(あぁ……うちは、この子に支えられてるんだ)
そう思うと、年上として少しプライドが邪魔するが、何故か優しい気持ちになれた。

+第二章+ 新シイ出会イ


「お願い……もう一回だけみーちゃんを探させて」
杏香が、そう陽幸に言うと陽幸は頷く。
「……行きましょう。あんちゃん」
「ありがとう」
美夏が消えた後、少しの間は天使も一緒に居たのだが、いつの間にかいなくなっていた。知らないうちに傍にいて、知らないうちに消えている。天使の謎は、解けそうにない。
「ねぇ、ひさ君……」
「はい?」
「どうして、あのビーズの使い方がわかったの? こうなるって知ってたの?」
立ち止まって、陽幸の背中に聞く。陽幸は止まらずに歩く。少しだけ、速度を落として。
「わからないです……」
そう呟くと、立ち止まってしまう。その顔は、杏香の角度からは見えないが、悲しそうな顔をしている様に思えた。
「どうして……どうして、こんな悲しい別れ方になるんですか! みーちゃんは笑っていたのに……どうしてボク達は悲しいのですか……」
陽幸の背中は、悲しげに俯いていく。
「ひさ君……」
後ろから、陽幸の頭を撫でてやる杏香。
――その時、ガサガサと音がした。
「「みーちゃん!」」
音がしたのは、公園からだった。僅かな希望を胸に公園へと駆け出す二人。
「いたた……あれ? 人おったん?」
公園に行ってみると、茶髪の少年が頭に葉っぱを付けながら木々の間から顔を見せた。黒縁の眼鏡も、ずれてしまっている。
「あ……えーと……初めまして」
ありえないとわかっていたが、美夏が居ると思ったまま公園まで来た陽幸は、言葉を探しながら少年に話しかける。
「初めまして。よろしゅうなぁ」
ふんわりと笑いながら立ち上がりながら、眼鏡をかけなおす。
作品名:時夢色迷(上) 作家名:黒白黒