小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

傀儡師紫苑(2)未完成の城

INDEX|32ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 

「このままじゃいつまで経っても捕まえられない。他のものを想像して!」
「他のもの?」
 雪夜は撫子を捕まえることのできる何か的確に沙織に説明することができた。だが、雪夜は沙織に任せた。
 沙織が考えごとをはじめたことによって、新たなぬいぐるみが現れなくなった。そして、隙もできた。
 全速力で走った撫子は雪夜に近づき鋭い爪を大きく振り上げた。
 接近して来た撫子に気がついた沙織が叫ぶ。
「センパイダメ!」
 再び撫子の身体が吹き飛ばされそうになったが、撫子はその瞬間に雪夜の腕を掴んでいた。
 吹き飛ばされる撫子に巻き添えを喰らった雪夜は思わず沙織の手を放してしまった。
 大きく吹き飛ばされる二人。叫ぶ沙織。
「雪夜くん!」
 吹き飛ばされつつ雪夜は掴まれた腕を掴む撫子の腕を掴み返した。
 高らかに雪夜は声をあげた。
「トゥーンマジック!」
「にゃ〜っ!?」
 撫子はねこのぬいぐるみにされてしまった。
 相手がこんな技を使えるなど撫子は全く知らなかった。どうりで彪彦がブリキの人形にされていたはずだと今になって思った。
 ぬいぐるみにされた撫子は辛うじてしゃべることができたが、彪彦と違って動くことはできない。撫子は魔導士ではないので魔導力があるわけではない。撫子が持っているのは多少の耐性とズバ抜けた感知能力だけで、彪彦のように無理やり魔導力で身体を動かすようなまねはできないのだ。
「にゃーにゃーもぉヤダーっ! 早くプリティ美少女の身体に戻してよ!」
「それはできないよ」
 この場に駆け寄って来た沙織は嬉しそうな顔をしてねこの人形と化した撫子を抱きかかえた。
「可愛いですぅセンパイ! 沙織が大事にしますからねっ!」
「大事にしにゃくてもいいから、もとに戻して!」
「だから、できないって――!?」
 雪夜は首に違和感を感じ、何を見た翔子が声をあげた。
「愁斗くん! それに二人も!?」
 全員の視線が愁斗と久美と麻衣子に集まった。
 愁斗は妖糸をしっかりと手で握り締めている。その妖糸の先はしっかりと雪夜の首に巻きつけられていた。
「動くな、動くと貴様の首を飛ぶことになる」
 冷たく言い放つ愁斗は本気だった。
 雪夜は何もすることができず、近くにいる沙織も動けずにいた。
 愁斗は命じた。
「まずは瀬名さんを解放してもらおう」
 この言葉の後に翔子は身体を掴まれていたクマのぬいぐるみから開放された。
「あ〜、助かった」
 緊張の糸が解れて翔子は地面にへたり込んだ。
 ぬいぐるみにされた撫子が沙織の腕の中で叫んだ。
「アタシも早く人間に戻してーっ!」
「ボクの首に巻きついた何かをどうにかしてもらえないと無理だよ」
「愁斗ク〜ン、この子に巻きつけた糸解いてよ〜ん!」
「駄目だ」
 撫子の言葉に愁斗は即答した。
「そんにゃ〜」
 愁斗の手から妖糸が放たれた。それは雪夜を操る妖糸であった。
 人形のように操られる雪夜は自分の意思とは関係なく沙織から撫子を受け取った。そして、愁斗が命じる。
「撫子を人間に戻せ」
「しかないな、トゥーンマジック!」
 撫子は人間の姿に戻ってすぐに翔子のもとへ駆け寄って行った。
 床に置いてあった鳥かごがガタガタと揺らされた。
「わたくしももとの姿に戻していただきたい」
「――だそうだよ」
 雪夜はそう愁斗に告げたが、愁斗の反応は冷ややかだった。
「彼は……影山彪彦か、彼はもとに戻さなくてもいいだろう」
「にゃにゃにゃに言うの!? ちゃんと戻してくれにゃいとアタシが後で困るよぉ」
 喚き散らす撫子を翔子が後押しした。
「愁斗くんお願い」
 雪夜の身体が動き出し鳥かごの中に入っている彪彦を抱きかかえた。
「トゥーンマジック!」
 彪彦の身体がもとの鴉に戻った。
「助かりました愁斗さん、ありがとうございます」
 鴉の姿をしている彪彦を見て愁斗は何も思わなかった。すでに彪彦の本体が鴉であることには気づいていたのだ。
 一段落ついたところで麻衣子がしゃべりだした。
「帰りましょう沙織さん」
「沙織帰りたくない」
 後退りをする沙織に久美は怒鳴るような口調で言った。
「あんたね、せっかく私たちが迎えに来てあげたんだから、一緒に帰るわよ!」
「ヤダヤダヤダヤダ! 沙織はこの世界から出たくない。ずっと子供のままでいたいんだもん!」
「あんたわがまま言ってないで私たちと帰るのよ!」
 久美は怒りながら沙織に詰め寄ろうとした。だが、沙織が叫んだ。
「来ないで!」
 久美の身体が吹き飛ばされ、麻衣子が地面に倒れながらそれを受け止めた。
「久美さん大丈夫ですか? 沙織さんなんてことするんですか!」
「ヤダヤダヤダヤダ! 沙織は久美ちゃんと麻衣子ちゃんとこの世界で暮らしたいの!」
 起き上がった久美は再び沙織に詰め寄った。
「私はもとの世界に帰るわよ、あんたを連れてね」
 麻衣子も沙織に向かって歩き出した。
「一緒に帰りましょうよ沙織さん。なぜ、帰りたくないのですか?」
「あんな世界つまらないもん!」
 沙織の言葉を聞いて怒った顔をした久美の手が沙織を掴もうとしたが、沙織はまた叫んだ。
「だから、帰りたくないの!」
 久美の身体が再び後ろに飛ばされて麻衣子に受け止められた。
 今ので久美は足をひねってしまったが、それでも再び沙織に近づこうとした。
「あんな世界ってどういうことよ! それって私や麻衣子と遊んでる時もつまらなかったってこと!」
「そ、そうじゃないよぉ」
「だったら私たちと帰って、あっちで遊べばいいでしょ?」
「だから、違うの違うの違うのぉ!」
 再び久美の身体が吹き飛ばされた。
 状況を静かに見守っていた愁斗が静かに口を開いた。
「この世界さえ消えれば、沙織がここにいる意味がなくなる」
 それはつまり、雪夜を殺すということだった。
 妖糸を持つ手に力が込められた。
 愁斗が何をしようとしているのかを察した翔子は静かに言った。
「その子のこと殺さないよね」
 こう翔子に言われなければ愁斗は殺していたに違いない。
 雪夜の首に巻きついていた妖糸が地面に落ちた。
 ため息をついた雪夜は微笑んだ。
「ボクは帰ろうと思う場所がない。けど、沙織さんは違うようだ」
 何を感じ取ったのか沙織は雪夜を見つめた。
「どういうこと、沙織は帰りたくないよぉ。ねえみんなもこの世界で住もうよ!」
 久美と麻衣子は沙織のもとに駆け寄って、沙織の腕を掴んだ。
「帰るわよ」
「帰りましょう沙織さん」
「ヤダよ、沙織帰りたくない!」
 沙織は二人の腕を振り払って雪夜の手を掴んだ。しかし、その手は雪夜のよって振り払われた。
「どうしてなの雪夜くん!?」
「どうしてかな、ボクにもわからないよ。でもさ……」
 雪夜は魔力のこもった瞳で沙織を見つめた。すると、沙織の身体から力が抜けていき地面にゆっくりと倒れ込んだ。
 近くで見ていた久美が叫んだ。
「何した!?」
「大丈夫だよ、ちょっと眠ってもらっただけだから」
 静かに言った雪夜は背を向けて手をかざした。すると、雪夜の前に闇色の扉が現れた。そして、彼は背を向けながら言った。