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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(2)未完成の城

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 麗慈の手が煌いた。妖糸が針のように彪彦に襲い掛かる。
「あなたの攻撃など簡単にかわすことができますよ」
 妖糸は鉤爪によって弾かれ、彪彦は速攻を決めた。
 だが、雪夜はそのチャンスを見逃さなかった。
 一瞬の彪彦の隙をついて雪夜が飛びかかった。いったい雪夜は何をしようとしているのか?
 雪夜は彪彦の鉤爪を掴んで高らかに声をあげた。
「トゥーンマジック!」
 なんと雪夜は鉤爪にトゥーンマジックをかけたではないか!?
 いったい、鉤爪にトゥーンマジックをかけるとどんな反応が起こるのであろうか?
 反応はすぐに出た。鉤爪はブリキの鴉の人形となって地面に音を立てながら落ちた。そして、彪彦もゆっくりと地面に崩れ落ちたではないか?
「わたくしとしたことが大きな失態をしてしまいましたね。まさか正体を見破られようとは……」
 この声はブリキとなった鴉から発せられていた。
 ブリキになった鴉を見て麗慈が嗤った。
「クククク……これがこいつの本体ってわけか、俺も知らなかったぜ」
 そう、鴉が彪彦本人であったのだ。彪彦だと思われていた人間は腹話術の人形に過ぎなかったのだ。
 ブリキの人形にされた彪彦は魔導力が少しは残っているようで、動いて逃げようとしたが麗慈の妖糸で縛り上げられてしまった。
「逃げようとしても無駄だ、ククク……」
 雪夜はブリキの鴉を指で弾いてブリキの音を響かせた。
「トゥーンマジックは生き物にかけると玩具になっちゃうんだよ。でも、彼を玩具に変えるのにはだいぶ力を消費してしまった……みたい……」
 雪夜は地面に膝をついた。
「ボクはちょっと休むから……彪彦さんのことは麗慈に任せたから、じゃ」
 甲板の上に寝転んだ雪夜は眠りに落ちた。
「――だとよ、おまえの処理は俺に一任されたわけだ、ククッ」
「まあ、それは大変なことですね。可能性としては殺されるのが確率として一番高いでしょうか?」
 他人事のようにしゃべる彪彦に対して、雪夜は弄ったらしく首を横にゆっくりと振った。
「いいや、殺しちまったらそれでお終いだろうが。おまえはこのままの姿で鳥かごの中で一生暮らすんだ。ククク……まるで昔の俺のようだ」
「それはそれは何と慈悲深い寛大な処置ですね」
 圧倒的に不利な状況であっても彪彦はわざとらしく言葉を吐いて麗慈をおちょくった。
「クククククククク……」
 可愛らしい動物が行き交う中でそこだけが異様な雰囲気に見えた。

「き、今日も、く、苦しい……」
 今日も翔子は亜季菜と一緒に寝ることになってしまった。
 今朝も亜季菜の腕や脚によって翔子の身体は拘束されている。
「起きないでくださいよぉ〜」
 翔子は自分に絡みついた亜季菜の身体を丁重に外した。そして、相手を起こさないように慎重にベッドから起きた。
「逃げる気!」
 翔子の身体がビクっと震えて、心臓がぎゅっと鷲掴みにされたような感覚を覚えた。今朝もか、と正直思った。
「起きてるんでしょ亜季菜さん?」
「ええ」
 ムクッと起き上がった亜季菜はすんなり認めた。しかも、よく見ると着替えが終わっている。
 翔子よりも早く起きた亜季菜は着替えを済ませた後に、わざわざ翔子に抱きついて翔子が起きるのを待っていたのだ。
「あたし今朝は早いから、じゃ、出かけて来るわ」
 亜季菜はきびきびとした動きで部屋を出て行ってしまった。
「……わかない、亜季菜さんってひとがわからない」
 翔子は亜季菜という人間について考えながら着替えを済ませて部屋を出た。
 キッチンでは今日も愁斗が朝食の準備をしていた。
「あ、瀬名さん、おはよう」
「おはよう愁斗くん。今日も朝食の準備してもらっちゃってごめんね」
 ちなみに昨日は、翔子は家の中で愁斗と二人っきりで過ごし、昼食は愁斗に作ってもらい、夕食は帰って来た亜季菜が出前を取った。
「瀬名さんはテーブルで待っててすぐに料理を運ぶから」
「ありがとぉ」
 翔子に手伝うという気は全くなかった。昨日から翔子は愁斗に甘えっぱなしで、全て愁斗に任せっきりだった。唯一、翔子がしたことを言えば自分の下着を洗ったことぐらいだった。
 すっかり気分はお姫様の翔子の前のテーブルには料理が運ばれ、愁斗は飲み物まで注いでくれた。
「もう、愁斗くん優しくて大好き!」
 昨日もほとんど二人っきりだったためか、翔子のテンションは上がりっぱなしだった。後で振り返ると、翔子は今の自分のことを恥ずかしがるだろうが、今の翔子はそんな気持ちなど微塵も感じない。
 朝食をとりながら愁斗はまだあのことが頭に引っかかっていた。
「瀬名さん、やっぱり……」
「なあに?」
 翔子は満面の笑みだった。それを見た愁斗は言い出せなかった。
「いや、別に。そうだ、何時に出発する?」
「朝食を食べたらすぐに行こう」
「そうすると正午ごろに着くけね」
 ――朝食を食べ終えて、二人は身支度を済ませると、さっそくバスと電車を乗り継いでテーマパークに向かった。
 テーマパークのある駅に近づくにつれて、愁斗たちと同じ場所に向かうであろう家族連れやカップルが多くなって来た。
 電車の座席に愁斗と並んで座るというのは、翔子にとってなかなかドキドキする体験だった。
 肩と肩が触れ合って相手の体温が伝わって来る。
「愁斗くん?」
「なに?」
「別に何でもないんだけど、名前が呼びたかっただけ」
 相手に身体を寄せて存在を実感し、それでも満足できずに名前を呼んで相手がそこにいることを確認する。幸せが大きくなるに比例して不安も大きくなっていく。
「名前を呼びたかっただけ?」
 愁斗は不思議な顔をしている。愁斗には翔子の微妙な気持ちは理解できていなかった。
「そう、名前を呼びたかっただけなの。愁斗くんも私の名前を呼んで」
「瀬名さん?」
 不思議に思いながら愁斗は翔子の名前を呼んだ。それで翔子は満足した。相手に名前を呼んでもらって、自分が今ここにいることを実感できた。
「ありがとう愁斗くん、いつまでも一緒にいようね」
「いつでも傍にいるよ」
 相手がこんなにも近くにいるのに、どうしてこんなに不安なのだろうか?
 翔子は愁斗の愛しい横顔を見ていると胸がしめつけられる。未来の不安よりも今の不安を解消したい。
 愁斗の肩にそっと翔子は自分の頭を乗せた。愁斗は少し驚いた顔をした。
「瀬名さん?」
「少しの間だけ、このままでいさせて……」
 ゆっくりと目をつぶった翔子は愁斗の息遣いを感じながら眠りに落ちてしまった。
 ――しばらくして電車がテーマパークの最寄り駅に着いた。
「瀬名さん、起きて」
 愁斗に優しく声をかけられて翔子は健やかな眠りから目を覚ました。
「……ううん……おはよぅ」
「着いたよ」
「……うん」
 もう少し寝ていたかったような気もしたが、翔子は愁斗とともに電車から降りた。
 駅のホームは人々で混雑している。この駅は新しくできたテーマパークやショッピングタウンと隣接していて、今日も多くの人々がここに訪れている。