小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

傀儡師紫苑(2)未完成の城

INDEX|24ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 

 鉤爪が巨大なクマに吸い付いているような形となった。やはり、大きさが違い過ぎて吸い込むことができないのか。いや、少し時間がかかっているに過ぎなかった。
 鉤爪が吸い込もうとするたびに巨大なクマがぶるぶると振動し、やがて少しずつ巨大なクマが明らかに大きさの違う鉤爪の中に喰われていった。
「少し喰らい過ぎましたね」
 有りとあらゆるものを喰らうことのできる鉤爪だが、その要領は有限でも無限でもない。喰らえる量は変化し続けるのだ。
 彪彦が辺りを見回すと雪夜の姿はすでになく、動物たちは何事もなかったように行き交っている。
「彼がどこにいるかわかりませんね」
 強い魔導力を持った者を見つけるのには、その強い魔導力を感知すればいいのだが、それなりの魔導士などになると魔導力を隠すことができる。だが、雪夜の場合は自分の魔導力を隠す術を知らない。では、なぜ彪彦に感知できないのか?
 この世界を創り上げたのは雪夜であり、この世界には雪夜の魔導力が充満していてどこからでも雪夜の魔導力が感じられてしまうのだ。
 ずれたサングラスを直す彪彦の視線に、巨大化された玩具の戦車が飛び込んで来た。
 轟音とともに戦車から砲弾が発射された。
 彪彦の口の端がつり上がった。
 凄い速さで飛んで来た砲弾は開かれた鉤爪の中に吸い込まれるようにして飛び込んだ。衝撃で彪彦の身体が地面を擦り動きながら後退する。
「こんなこともできるのですよ」
 轟音が鳴り響いた。砲弾が鉤爪の内から撃ち返されたのだ。
 砲弾は見事に戦車を大破させた。
 人間サイズの玩具の兵隊数体が一列に並んで銃を構えた。次の瞬間、玩具の銃が火を吹いた。
 向かって来る銃弾を避けるために彪彦は鉤爪を瞬時に黒い翼に変化させて天高く舞い上がった。
 彪彦の手首に生えるように付いている翼は上空で鉤爪に再び戻された。
 約三〇〇メートルから落下する彪彦は風に煽られながら、照準を合わせるようにして鉤爪を兵隊たちに向けた。
 高らかに彪彦は命じた。
「お行きなさい!」
 鉤爪の内から闇色の何かが撃ち放たれた。それは〈闇〉だった。
 悲痛な叫び声をあげて〈闇〉は兵士たちを喰らった。
 彪彦は地面に軽やかに着地して〈闇〉が兵士たちを喰らい終わるの待った
 頃合いを見計らって彪彦が鉤爪の口を開くと、〈闇〉はその中に還っていった。そして、〈闇〉は鴉の内で消化された。
 鴉に喰われたものは普通ならば消化されてしまう。だが、消化せずに保管しとくことも可能だった。
 今、彪彦が扱った〈闇〉は昨日の麗慈との戦闘で喰らった〈闇〉を保管して置いたものだ。
 辺りを静寂が包み込んだ。
「近くにいるのはわかっているのですが、いったいどこに?」
 バギー乗り場から一台のバギーカーが勢いよく柵を越えて歩道に飛び出して来た。それに乗っているのは雪夜だった。
「逃がしませんよ!」
 バギーカー程度のスピードであれば彪彦の走りで追いつけぬはずがない。だが、彪彦があと少しでバギーカーに追いつくという時に相手がスピードを上げた。バギーカーはトゥーンマジックがかけてある特別製だったのだ。
 バギーカーが通る道は動物たちが避けてくれるのだが、彪彦の場合は避けてくれない。已む無く彪彦は鉤爪で動物たちを切り裂いて先を急ぐ。
 バギーカーはドラフト走行でうまく急カーブを曲がり逃げる。彪彦の走る速度は時速八〇キロメートルを越えている。それなのにバギーカーとはいい勝負だ。
 雪夜はバギーカーで逃げながら時間稼ぎをしていた。自分では彪彦に敵わない。となるとあの男が帰って来るのを待つしかない。
 猛スピードで走るバギーカーがメリーゴーランドの横を通った時に、メリーゴーランドの馬に乗っていた沙織が雪夜に嬉しそうに手を振った。
「あっ、雪夜くん!」
 一瞬であったが雪夜も手を振って返した。その後ろを走る彪彦は不思議そうな顔をした。
「部外者が三人もいたのですか……」
 女子三人組はひとまず保留として彪彦はバギーカーを追った。
 雪夜はバギーカーをテーマパーク内にある湖の横を走らせた。
 前方に客船の乗り場が見えて来た。
 雪夜はアクセルを強く踏んだ。加速するバギーカー。客船が汽笛をあげて動き出した。
 橋げたの上にバギーカーが乗り上げた。その橋の先は湖で、そのまた先には動き出した客船がある。
 ガタガタと橋を走るバギーカーが揺れる。そして、バギーカーは途切れた橋からジャンプした。
 いくら加速していたとはいえ、船と同じ高さから飛んだのでは船には届かない。
 勢いでどうにか船の近くまで行くことができたが、バギーカーが落下をはじめてしまった。それと同時に雪夜はバギーカーから全力で船に向かってジャンプした。
 船に手を伸ばす雪夜。あと、少し――。
 ガシッと船の縁を雪夜は両手で掴んだ。身体が宙ぶらりんになる。
「くっ……くそっ!」
 雪夜は手と腕に力を込めてどうにか客船の中に乗り込み、木でできた床の上に転がり込んだ。もし、手を離して水の中に落ちていたら、船の後ろのモーターに巻き込まれていたかもしれない。
 雪夜は立ち上がって遠くの橋を見た。そこには彪彦が立っていて鉤爪を装着した腕を上げて何かをしようとしていた。
「まさか、追ってくるのか?」
 そのまさかだった。
 遠くにいる彪彦は腕に装着されていた鉤爪を黒い翼に変えて飛翔した。先ほど彪彦が同じ方法で空を飛んだのを雪夜は見ていなかった。雪夜はバギー乗り場でバギーカーを調達していたのだ。
「空も飛べるのか!?」
 着実に船に追いついて来る彪彦から逃げるために雪夜は甲板に走った。
 甲板には動物たちが数体いる。それ全てに雪夜はトゥーンマジックをかけた。
「トゥーンマジック!」
 動物たちに外的変化はないが雪夜の護衛と化している。
 黒衣を纏った彪彦が空から舞い降りて来た。その姿はそれ自体が巨大な鴉のように見える。
 甲板に軽やかに降り立った彪彦に動物たちが襲い掛かる。
 彪彦は襲い掛かって来る動物たちを揺れるようにかわし、瞬時に変化させた鉤爪で切り裂いた。切り裂かれた動物の中身は綿だった。
 動物たちが全て倒されてしまい、逃げ場も失った雪夜は両手を上げて見せた。
「ボクは負けを認めるよ。ボクって戦闘が苦手で、ボクの能力をどう使って相手と戦っていいのかわからないんだよね」
「なるほど、良い心がけですが――」
 彪彦は鉤爪を横に振り回して後ろにいた敵を攻撃した。
「危ねえっ!」
 声をあげながら麗慈は間一髪で後ろにジャンプした。
「ククク……気配を消してたつもりだったんだがな」
「麗慈くんはまだまだですね。気配が消しきれていませんでしたよ」
 戦いは二対一となった。
「ククッ、雪夜はそこで指をくわえて見物してな」
「言われなくてもわかっているさ、ボクは戦闘タイプじゃないからね」
 雪夜は彪彦から視線を外さないようにしながら後退した。
 戦線離脱したように思えても、いつまた襲い掛かって来るかわからないうちは、彪彦は雪夜から注意を逸らせない。
 戦力から言えば彪彦にとって雪夜よりも麗慈の方が厄介だった。雪夜は自分でも言っているとおり戦闘タイプではない。だが、麗慈はまさに戦闘タイプだ。