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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(2)未完成の城

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 テーマパークに向かう人々の流れに乗って翔子は愁斗と歩いていたが、周りを見てちょっぴり恥ずかしくなった。家族連れも多くいるが、今日という日のせいだろうか、カップルの数が多い。それを見て翔子はちょっぴり恥ずかしくなった。
 この場所に新しくできたテーマパークの総面積は国内最大とされ、開園前からテレビや雑誌の取材を多くされ、人々の話題を集める大テーマパーク、それが新しくできたジゴローランドだった。
 二人がここに到着したのは十一時半過ぎで、そろそろ昼食を食べてもいい時間帯だった。
「愁斗くん、お昼どうしようか?」
「そうだね、テーマパークの中で食べる? それとも食べてから中に入ろうか?」
 テーマパークの近くも飲食街やテーマパークの関連グッズを販売する店が点在している。
「う〜ん、せっかくだから中で食べたいなぁ」
「じゃあ、そうしよう」
 などと二人が話しているとテーマパークのセントラルゲートが見えて来た。
 翔子は愁斗にチケットを手渡して、二人は幾つもある列の一つに並んだ。
「中に入るだけなのにドキドキするね」
 心底嬉しそうな翔子だが、愁斗は中に入るだけで何でそんなに嬉しいのか理解できなかった。
「まだ中に入ってないのに、どうしてそんなに楽しそうな顔をするの?」
「愁斗くんはドキドキしないの? 何かさぁ、愁斗くんっていい言い方すればクールだけど、子供みたいにはしゃいでるの見たことないよね」
「う〜ん」
 考え込んでしまった愁斗の手を引いて翔子はテーマパークの中に入ろうとした。その瞬間、愁斗はもの凄い魔導を感じて翔子の手を引こうとした。だが、すでに遅かった。
 そこは雪夜の創り出した世界だった。
 一般客も知らないうちに紛れ込んでしまっている。誰も気づいていない。大きな魔導力に人々は自然と心を奪われてしまっているのだ。
 二つの世界のテーマパークが混ざり合った世界。そこには人々もいれば、動物たちもいる。みんな何も考えずに楽しむことだけを考えている。
 身体は大人でも、心は純粋な子供に戻ってしまっている。もう、誰も外の世界に帰ろうとは考えなかった。
 異様な世界に目を奪われてしまっている翔子と愁斗の前にピエロが現れた。
「夢と冒険の世界、ネバーランドへようこそ!」
 ピエロは大きな口で笑った。

 愁斗は翔子の前に腕を出して、そのまま自分の後ろに翔子を導いた。
「ごめん瀬名さん、やっぱりこうなった」
「こうなったってどういうこと?」
 この世界の異様さはわかった。だが、翔子には何が起きているのかわからなかった。
「デートは断るべきだった。僕らは自ら麗慈の罠に飛び込んでしまった」
 この世界に迷い込んだ人々は、この世界にこもっている魔導に魅了されてしまっている。だが、魔導に耐性のある愁斗と造り変えられた躰を持つ翔子は異変に気づくことができた。
 ピエロは嗤った。
「クククク……恋人を連れて来るなんてバカなヤロウだな」
 愁斗と翔子の前に現れたのは麗慈であった。濃いピエロの化粧に下にある顔は確かに麗慈の顔だった。
 麗慈の手が煌き、愁斗の手も煌いた。
 空中で交じり合った光はゆらりゆらりと地面に落ちた。
「ククク……外したか」
「瀬名さんを狙ったな?」
 今の麗慈の一撃は愁斗を狙ったように見せかけて、その後ろから顔を覗かせている翔子を狙ったものだった。
 恐怖を覚えた翔子は愁斗の服をぎゅっと掴んで震えた。
「愁斗くん……」
「大丈夫だよ、瀬名さんは僕が守る」
「ククッ、ベタベタな熱い仲だな……クククククククク」
 愁斗は氷の瞳で麗慈を見つめた。
「この世界は何だ? 組織が創り出した世界なのか?」
「いいや、俺は組織から追いかけ回されてる身だからな。この世界を創ったのは芳賀雪夜っていう小六のガキだ」
 この話を聞いた愁斗の眉がピクリと動いた。
「個人が創り出したのか!? まさか、そんなことがあり得るはずがない。それは神と同等の力を手に入れるに等しいことだぞ!」
 その時、愁斗は思い出した――いつか出逢った少年のことを。
 その少年は組織の一員である影山彪彦に追われていた。世界を創り出す力を持つ少年を組織が見逃すはずがない。
「ククク……だから雪夜も組織から追われるハメになったがな、一人目の刺客は捕まえてカゴの中だ」
 カゴというのは牢屋の比喩だと愁斗や翔子は思ったが、彪彦は本当に鳥かごの中に入れられている。
 愁斗は驚いていた。雪夜を追っていた組織の人間とは恐らく彪彦のことだろう。だが、あの男が捕まるとは思っても見なかった。
「それはあの影山彪彦という男のことか?」
「そーだ、あいつだ。雪夜にブリキの人形に変えられちまった」
 愁斗が彪彦に出会った時、愁斗は彪彦から底知れぬ魔導力を感じた。もし、戦ったら自分でも勝てるかわからない相手がやられた。そのことが愁斗に大きな衝撃を与えた。
 だが、その衝撃が愁斗は冷たいほどに冷静にさせた。
「質問がある。この世界を創ったのは芳賀雪夜と言う人物だと言ったな?」
「ああ、あいつが創った」
「では、私の知り合いの力を混じっているのはなぜだ?」
 愁斗がこの世界から感じた魔導力はひとつではなかった。そこには沙織の力も混じっていたのだ。
「クククク……よく気づいたな。この世界の基盤を創り出したのは雪夜だが、そこに手を加えたのはおまえらもよく知ってる沙織って女だよ」
 愁斗は表情を崩さなかったが、翔子は心底驚いた。
「どういうこと? 沙織ちゃんがいるって……」
 そういえば翔子は久美と麻衣子から沙織と連絡がつかないと聞いていた。だが、どうして沙織がここにいるのかがわからない。
「ククク……雪夜に気に入られて連れて来られた。そう言えば沙織の友達二人もこの世界を満喫してるぜ」
 翔子は愁斗の背中を引っ張った。
「愁斗くん、三人をこの世界から出してあげて」
「わかっている、だが、今はこいつの相手が先だ」
「さっさとヤリ合おうぜ、クククク……」
「瀬名さんは遠くで隠れていて」
 愁斗が腕を伸ばした方向に翔子が走り、その背中を麗慈が狙おうとした。
「あの時はヤッてやらなかったが、ククッ、愁斗の前じゃ話は別だ!」
 麗慈の手から針と化した妖糸が放たれた。
「彼女に手を出すな!」
 愁斗の手から放たれた妖糸は麗慈の放った妖糸を切り裂いた。
「ククク……逃げられちまったか。まあ、最初からあんなメスには興味はねえ。俺がヤリたいのはおまえだ紫苑!」
 幾本もの妖糸が蛇のように動きながら愁斗に襲い掛かった。
「貴様は私には勝てない!」
 襲い来る幾本もの妖糸を愁斗は一本の妖糸で華麗に切り裂き、すぐに空間を切り裂いた。〈闇〉が来る!
 空間にできた闇色の傷が悲鳴のような音を立てながら空気を吸い込み大きくなっていく。
 闇色の奥に潜む〈闇〉は慟哭した。苦痛が空気を伝わって世界に満ちる。
 だが、愁斗や麗慈の周りを行き交う人々や動物たちは、笑みを浮かべながら何事もないようにテーマパークを満喫している。この世界は狂っていた。
「クククク……」
 嗤った麗慈は愁斗と同じことをした。
 空間に二つ目の闇色の傷ができた。〈闇〉と〈闇〉が互いを喰らい合うのか!?