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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(2)未完成の城

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 そう言って沙織はあっかんべーをした。それを見た久美は余計に腹を立てて怒った。
「もういい、勝手にしなさい!」
 怒鳴った久美は走って行ってしまった。
「久美さん!」
「久美ちゃん待ってよぉ!」
 二人はすぐに久美の後を追った。
 少し走ったところで久美は足を急に止めて振り返って大声を出した。
「止まりなさい!」
 身体をビクっとさせながら沙織と麻衣子は足を止めた。
 久美は自分でもなぜ怒っているのかわからないほど怒っていた。
「怒りたくって怒ってるんじゃないのよ、ただ、心配かけてゴメンって沙織が言ってくれたらそれで気が済んだのよ」
「ごめんねぇ、久美ちゃん。約束破る気なんてなかったんだよぉ、でも、ここが楽しくて時間の感覚がなくなっちゃだけなの」
 永遠に子供のままでいられる世界は肉体に時間を忘れさせる世界だった。そのため沙織には本当に時間の感覚がなかった。
 麻衣子は沙織の手を引いて久美の前まで行った。
「久美さんも沙織さんにごめんなさいって言いましょうね」
「ごめん。沙織が相手だとさ、強く言っちゃうのよね。別に嫌いってわけじゃないのよ、ただ、心配なのよ沙織は」
「そんな心配しなくても平気だよぉ」
 二人は仲直りをしたようなので麻衣子はにこやかに笑った。
「はい、一件落着」
 だが、久美はちょっとだけ気にかかることがあった。
「あのさ、麻衣子も私に謝ってよ」
「どうして?」
「だって、素直じゃないって……」
 素直じゃないのは自分でもわかっていたが、直接そう言われると恥ずかしいので久美は麻衣子に発言を撤回して欲しかったのだ。だが、麻衣子は悪戯っぽく笑ってこう言った。
「素直じゃないのは本当だから謝らないよ。これを機会に久美には素直な性格になって欲しいかな」
「私のどこが素直じゃないって言うのよ、例を挙げてみなさいよ!」
 こう言った後にすぐ久美は後悔した。麻衣子ならばすぐに例を挙げて来ると思ったからだ。予想は的中した。
「そうやって怒るのは本当の気持ちをカモフラージュするためでしょ?」
「…………」
 的を射た答えに久美は何も言い返せなかった。そこに沙織が空かさず傷に塩を塗りこむようなまねをする。
「黙ったってことは認めてるのと同じだよぉ〜」
「違うわよ!」
 こうやって怒って見せるのが認めているいい証拠だった。
 顔を見合わせて笑いを堪える二人を見て久美は恥ずかしくなって話題を変えた。
「もう、ほら沙織遊びたいんでしょ、行くわよ遊びに。麻衣子も付き合って、ほら!」
 今のも笑いそうな二人の腕を久美が掴んだ瞬間、二人は大笑いしはじめた。
「久美ちゃんおもいろ〜い、あはは」
「……くっ……久美って結構単純」
 麻衣子は笑いを堪えるのが精一杯だった。
「もう、笑いたいなら笑えばいいでしょ?」
「もぉダメ、あはは、今日の久美最高。本当の気持ちを隠そうとしてるのに、それがバレバレなのがおもしろいね」
 久美は笑われることをあきらめて、何かが自分の中で吹っ切れた。
「はいはい、これから素直になるように努力しますから、今のうちに存分に笑っておきなさいよ。じゃ、とりあえず、あれ乗りに行くわよ」
 さっさと歩き出した久美の後ろを二人はクスクス笑いながらついて行った。

 明日開園のテーマパークではアトラクションの最終整備やパレードの練習などが余念なく行われていた。
 彪彦はそのテーマパーク内を堂々と歩き回っていた。彼の姿は人々の死角に入ってしまっているので普通の人間には見ることができないのだ。
「撫子さんの調査でもやはりここが怪しいと出ましたが、さて……」
 彪彦は辺りを見回した。一般客の姿がない以外は普通のテーマパークだ。
 立ち止まった彪彦は思考を巡らせた。
 世界を三次元で現すことはできないが、解り易く例えるならば、こことあの世界は同じラインにあると言える。
「距離や時間という概念は無用の長物――遠いようで近くにある。ここが入り易そうですね」
 伸ばされた彪彦の手の先から肘までが消失した。いや、正確には消えた部分は別の世界に入ったのだ。
 空間の境目に彪彦の身体が入っていく。傍から見たら人間が消失していくようにしか見えない。
 雪夜の創り出した世界に彪彦の指先が突如現れ、あっちの世界で消えた順にこちらの世界に身体が出て来る。
「前に来た時とは随分と雰囲気が変わりましたが、様相は同じようですね」
 前に彪彦が来た時とは違ってこの世界が華やいでいる。動物たちがテーマパーク内を歩き回り活気に満ち溢れて、外面的には変わっている。だが、彪彦は内面的変化は何もないと感じ取った。
「……拒絶と空虚ですね」
 拒絶と空虚が世界から感じられる。外面的に変わっていても何かが足りない。この世界の外面的なものは沙織によって創られたが、内面的なものは雪夜が最初に創り出したままの世界だ。
 このテーマパークを散策しながら雪夜の意図を探ろうとしたが、創り上げた動機は恐らく彪彦の感じ取ったものだろうが、その使用目的までがわからない。きっと、雪夜自身も何に使用するのかわからずにこの世界を創り上げたに違いない。
 テーマパーク内に設置された小さなお店で食べ物や飲み物を配っている。無料で配っているようなので店とは言えないかもしれない。
 彪彦も動物たちが並んでいる列に並んで飲み物を注文しようとした。
「いらっしゃいませ」
 と動物の店員が日本語をしゃべる。きぐるみのようにも見えるがデフォルメされた?本物?のようだ。
「それをお一つ頂けますか?」
 彪彦は適当な飲み物を注文して受け取ると近くにあったベンチに腰を掛けた。
「一休みでもして、あちらからやって来てもらうのを待ちますかね」
 彪彦は手に持ったジュースに刺さったストローを自分の肩に止まっている鴉に向けた。鴉は上手にくちばしでストローを挟みジュースを飲みはじめた。
「なかなかおいしいですね」
 ジュースを飲みながらしばらく待っていると、あちらから現れた。
「おはようございます、影山さんでしたよね?」
「そうです影山彪彦です」
 空になったコップを鴉に喰わせて彪彦はベンチから立ち上がった。
 すでに彪彦の手には鉤爪が装着されている。
「残念なことにこの世界の破壊とあなたの処分命令が正式に組織から下されました」
「処分ってどんなですか?」
「捕らえることが第一、無理な場合は殺してしまっても止むを得ないそうです」
「このボクの世界でボクに挑む気とは、勇気ありますね」
「ここが雪夜さんの世界だとしても、全ての法則があなたの自由にはなりません」
 鉤爪の口が大きく開かれた。そして、闇色をした口の中に風が轟々と吸い込まれはじめた。彪彦は全てを鴉に喰らわすつもりだった。
 周りにした動物たちが鴉に喰らわれる中、雪夜は足を踏ん張らせるが、その身体は徐々に鴉の口の中に吸い込まれて行こうとしている。
 雪夜は近くいた動物の身体を掴んで叫んだ。
「トゥーンマジック!」
 巨大化させられた動物はクマの形をしている。その巨大さは全長二〇メートルを超えた。
 鉤爪が吸い込む出力を上げる。
 巨大なクマに比べて明らかに小さな鉤爪が勝っている。巨大なクマの身体が吸い込まれていくではないか!?