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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(2)未完成の城

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「こんにちは王子様、何の御用ですか?」
 うさぎはうんうんと何かにうなずいてケータイを切った。
「耳を離してください、急用ができました」
「質問に答えたら放して差し上げます」
「すぐに済みますから放してください」
「仕方ありませんね」
 彪彦に耳を放されたうさぎはぴょんぴょんと跳ねしながら麻那と隼人の前まで行った。麻那は身構え、隼人は物珍しそうにうさぎを観察している。
「なによ、なにかする気?」
 警戒心を強める麻那の身体にうさぎはタッチして、すぐに隼人にもタッチした。すると、麻那と隼人の姿がパッと消えてしまったではないか!?
「急用は終わりました」
 そう告げたうさぎはぴょんぴょん跳ねて彪彦の前に戻った。
「今のは何をしたのですか?」
「王子様の命令で無関係な人たちには還ってもらいました」
「その王子様とは芳賀雪夜のことですか?」
「さあ? 王子様といつも呼んでいるので本当の名前は知りません」
 王子様が誰だろうとしても、彪彦の動きがどこからか監視されていることは間違いない。そうでなければ都合よく電話がかかって来るはずがない。
 彪彦の手が素早く動き、再びうさぎの耳を掴んだ。
「最後の質問をします。あなたは先ほど二人をもとの世界に還しましたよね? といことはあなたはわたくしをもとの世界に還す能力があるはずです」
「さあ、どうでしょう? ボクを捕まえたら教えてあげます」
 捕まえるも何もうさぎはすでに捕まっている。だが、うさぎの耳が彪彦の手からスルリと抜けて、うさぎはぴょんぴょん跳ねながら逃走した。
 彪彦はうさぎを再び捕まえようとしたが、それは叶わなかった。うさぎのひと飛びは一〇メートル以上もの距離を跳躍し、すぐに姿を消してしまったのだ。
「不覚ですね、まさか逃げられるとは思ってもみませんでした」
 ずれたサングラスを直しながら彪彦は口元をつり上げた。そして、肩に止まっている鴉を天に羽ばたかせた。
 鴉は上空高く舞い上がり何かを見つけてそれの追跡をはじめた。彪彦はその鴉を追って走る。
 彪彦の前方に水色のジャケットを着たうさぎを見えて来た。あのうさぎに間違いない。
「行け!」
 彪彦の命令で鴉は急降下をはじめてうさぎ目掛けて飛んで行く。そして、鴉は急降下しながらくちばしを広げた。
 鴉のくちばしが信じられないほどの大きさになった。そのくちばしはうさぎを丸呑みできそうなくらいに大きい。
 うさぎが鴉の襲来に気がついて上を見上げた瞬間、うさぎは鴉に丸呑みにされた。鴉のくちばしはもとの大きさに戻り、その身体は巨大なうさぎを呑み込んだというのにぜんぜん膨れ上がっていない。鴉の腹はいったいどうなっているのだろうか?
 地面で主人を待つ鴉に駆け寄った彪彦は?うさぎ?に話しかけた。
「捕まえましたので答えを聞かせていただきたい」
 鴉が腹話術人形のようにパクパクと口を動かし、その内からうさぎの声が聞こえた。
「答えはできるけど、できない。もしキミを還したらボクが怒られるからね」
「それは殺されてもでしょうか?」
「それはそれで困るから、魂を消滅させられる前に人形に戻ろう」
 何が起きたのか見た目ではわからないが、うさぎは鴉の内で人形に戻った。
「無駄足になってしまいましたね。いや、わざと城から遠ざけられたという可能性もありますね」
 それがうさぎの狙いだったのかもしれない。うさぎが逃げたのは城の間逆だった。それを追った彪彦は城からだいぶ離れてしまった。
 自分の前に現れた人物を見て彪彦は最高の笑みを浮かべた。
「こんなところで出逢えるとはおもいしろい、まさか麗慈くんがここにいようとは思ってもみませんでした」
「それはこっちのセリフだ、ククク……」
 彪彦の前に現れたのは組織に追われている雪村麗慈だった。
 麗慈は愁斗の抹殺に失敗して、組織を裏切って姿を暗ましたのだ。その麗慈がなぜここにいるのか?
「俺が何でここにいるか聞きたいか?」
「いや結構、組織に連れて帰ってから、その件についてはお話しましょう」
「ククク……そう言うなよ。俺は組織から身を隠させてもらうのと交換条件で、この世界のナイトをやってるのさ」
 麗慈の手が煌き、彪彦の横に光が走った。そう、麗慈は愁斗と同じように妖糸を操ることができるのだ。
 妖糸が鞭のようにしなり地面を砕いた。
「ククッ、外したか」
「当たり前のことは言わないように。あたながわたくしに敵うわけがないでしょう。大人しく保護されるなら今のうちですよ、麗慈くん?」
「俺が大人しくないのは知ってるだろ?」
「ええ、熟知しています」
 彪彦から放たれた鴉は大剣と化して麗慈向かって飛んで行った。
 黒い大剣をギリギリで交わした麗慈はすぐさま妖糸を放つ。
 必殺の妖糸の舞が放たれた。妖糸が鞭のようにしなり、槍のように突き、剣のように切り裂く。
「クククククククク……ククク……」
 嗤いながら麗慈は彪彦を細切れにしようとした。だが、麗慈の攻撃はことごとく軽やかにかわされていく。
「何で当たらねえんだよ!」
「それは、あなたが偽者に過ぎないからです。真物の魔導士であるわたくしには絶対に勝てませんよ」
「くっ、バックか!?」
 麗慈が後ろを振り向いた時には大剣が振り下ろされる寸前だった。
「ぐぐっ……!」
 大剣が麗慈の腕を斬った。だが、切り落とされるまでには至らなかった。それでも妖糸を扱う右手が負傷してしまっては分が悪い。
「クククク……ヤッてくれるじゃねえか」
「どういたしまして」
「だがな、俺様は悪あがきが好きでよ、ククク……」
 煌きが放たれ空間に一筋の光が走った。それを目の当たりにした彪彦は驚愕した。
「まさか、君が……それを使えるのか!?」
 空間に闇色の傷ができた。そして、それは周りの空気を吸い込みながら広がっていき、やがては大きな穴をつくった。
「ククク……愁斗が使うのを見て、俺も扱えるようになったぜ」
 闇色の裂け目から悲鳴が聴こえる。泣き声が聴こえる。呻き声が聴こえる。どれも苦痛に満ちている。常人であれば耳を塞がずにはいられない。
 麗慈の腕が彪彦に向けられた。
「喰らってやれ!」
 裂けた空間から〈闇〉が叫びながら飛び出した。それは彪彦に襲い掛かった。
 彪彦は瞬時に鉤爪を装着して〈闇〉を切り裂くが、〈闇〉の勢いには勝てなかった。
〈闇〉は彪彦の腕を掴み、足を掴み、胴までも掴み、身体中に絡みついた。
「く、なかなかやりますね」
 彪彦は〈闇〉を振り払おうとするが、すでに腕は〈闇〉に呑み込まれていた。
「ククッ、いいザマだな。じゃあ、俺は逃げさせてもらうぜ」
 麗慈は彪彦を残して姿を消してしまった。
 〈闇〉は彪彦の顔を残して全てを包み込んだ。
「あの子は問題児ではありますが優秀ですね」
 そう彪彦が言ったと同時に〈闇〉が何かに吸い込まれはじめた。いや、喰われはじめたのだ。
 〈闇〉を喰らっていたのはあの鉤爪であった。
 鉤爪は彪彦の身体に付いた〈闇〉を喰らっていった。だが、〈闇〉も負けてはいない。
 空間の裂け目から〈闇〉が大量に出て来て彪彦に襲い掛かる。
「あの裂け目をどうにかしなくては……」