小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

傀儡師紫苑(2)未完成の城

INDEX|10ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 

 翔子の手が傀儡の頬に触れた。それは人間の頬の感触と同じだった。だが、氷のように冷たい肌だった。
 まるで安らかな眠りに落ちた姫のような傀儡。口元に耳を当てると寝息を聞こえて来そうだ。
 大きくカットされたドレスの胸元に翔子の視線が移動した。
「何か模様がある」
 胸の中心辺りに何か模様があるようだが、ドレスで隠れていて一部しか確認することができなかった。
 ドレスから覗く模様が翔子は気になって仕方がなかった。そして、次の瞬間にはドレスに手をかけて脱がせていた。
 露になった形の美しい乳房と乳房の中心にその模様はあった。目を奪われてしまう奇怪な紋様。それは翔子の胸にある紋様と全く同じものだった。
 唖然とした。翔子にはショックだった。傀儡と同じ紋様が自分の胸にもある。
 いつか翔子が死にかけた時、愁斗にその命を蘇らせてもらったことがある。
 ――いいや、君死んだ。……そして、僕の傀儡になった。
 目を覚ました翔子に愁斗はそう言った。
 傀儡になった翔子に愁斗いろいろと説明をした。自分が傀儡師であり、妖糸と呼ばれる特殊な糸を操っていろいろなことができること、そして、翔子を蘇らせたこと。
 いろいろ説明したと言っても、完結に言うと上で説明したことだけである。
 翔子は蘇ったことを聞かされたが、傀儡については何も聞かされてない。愁斗の操る傀儡とはどんなものなのか全く聞かされていなかった。
 翔子は目の前にいる傀儡を見て悲しくなった。自分には感情があり、人間らしく今も生きている。だが、自分も傀儡なのだと悲しくなった。同じ紋様があることがショックだったのだ。
 胸に刻まれた印が目の前にいるモノと自分が同じものだといっている。
 クローゼットをゆっくりと閉めた翔子は何も見なかったことにした。
 愁斗の部屋を出た翔子はダイニングに戻りソファーの上に寝転んだ。そして、眠ることにした。

「さて、どういたしたものでしょうか?」
 影山彪彦は後ろの二人を見て言った。
「お二人をまず殺すと選択肢もあるのですが……」
 この言葉が冗談ではないことを悟った麻那と隼人は後退りをした。
 麻那は強気な態度で出た。
「やれるもんなら、やってみなさいよ!」
 彪彦の口元がつり上がった。
「やりませんから、ご心配なさらずに。最近は組織も丸くなりまして、昔なら手当たり次第に抹殺していましたがね。さて、わたくしたちはどこかに迷い込んでしまったわけですが、どうしますか、わたくしについて来ますか? そうしたらもとの世界に還れるかもしれませんよ?」
 突然迷い込んでしまった異世界。そこはテーマパークのような場所だった。
 この現実を麻那と隼人は受け入れなくてはいけない。ここに来る前にも彪彦を雪夜の戦いを目の当たりにしている。異世界の飛ばされたことも信じるしかない。
 麻那は彪彦に詰め寄った。
「あんた本当にあたしたちをもとの世界に還してくれるの?」
「お二人で行動するより、わたくしと行動した方がいいと思いますが?」
 この言葉に麻那はうなずき、後ろにいた隼人を見た。
「僕もその方がいいと思うよ」
 彪彦はずれたサングラスを直しながら歩きはじめた。
「では、参りましょう」
「あんた、参りましょうってどこに行けばいいか知ってるの?」
「いいえ、勘です。ですが、あちらに何かがあるのは確かです」
 遥か遠くにある城を彪彦は指差していた。
 城は大部分が欠けていて、それが城だというのは辛うじて雰囲気からわかる程度だ。どうやら、城はまだ建設中のような感じが見受けられる。
 テーマパークに先ほどから流れている音楽が急に軽快な旋律に変わり、何かが現れそうな感じがした。
 現れたのはピエロだった。手にはナイフを持ち、今にもジャグリングを披露してくれそうな雰囲気だった。
「夢と冒険の世界、ネバーランドへようこそ!」
 四本のナイフをお手玉のように回しながらピエロは大きな口で笑みを浮かべている。
 すでに彪彦は黒い鉤爪を構えて戦闘体制に入っている。
 鋭いナイフが彪彦に目掛けて次々と飛んで来る。それも四本だけではなく、ピエロの手で回されているナイフの数は減ることなく次々と投げられて来るのだ。
 彪彦の身体が揺らめき、残像を残しながらナイフを避けていく。
 的を外れたナイフは地面に落ちた途端に消えてなくなる。
 ピエロはナイフを全て投げ終えて、次に手を後ろに回して爆弾を取り出した。その爆弾というのが、まるでアニメに出てきそうな形をしている。黒くて丸い玉に導火線が付いているという形だ。
 ピエロはどこからか取り出したマッチで導火線に火を付けて爆弾を投げた。綺麗な放物線を描いて爆弾は彪彦に向かって落ちて来る。その爆弾に彪彦は鉤爪を向けた。
 くちばしのような鉤爪の口が開かれる。あの液体を呑み込んだ時と同じだ。だが、まさか爆弾を呑み込む気なのか!?
 火のついた爆弾を鉤爪が呑み込んだ。次の瞬間、鉤爪が風船のように膨れ上がり爆発音がした。
 元の形に戻った鉤爪の口から消炎が出ている。だが、鉤爪は無傷のようだ。
 恐いほどの笑みを浮かべていたピエロの顔が焦りの表情を浮かべた。口元が少し引きつっているのが窺える。
 彪彦が風となり地面を駆けた。
 鉤爪が大きな口を開けてピエロの頭に喰らいついた。それを見ていた麻那は顔を伏せ、隼人は凝視してしまった。
 ピエロの頭はもぎ取られ、身体が地面に背中から倒れた。血は一滴も出ず、その代わりにピエロの身体は縮んでいき、やがて小さな人形になった。
 彪彦は地面に落ちたピエロの人形を拾い上げて呟いた。
「なるほど、これも彼のマジックですか」
 テーマパーク内に流れていた音楽が別のものに変わった。今度はパレードの音楽のようだ。
 しばらくすると巨大な何かのキャラクターを模った乗り物や、動物のきぐるみたちや妖精の格好をした者たちがぞくぞくと現れた。
 道路をパレードに占拠されて我が物顔で進んでいく。
 彪彦は興味深そうに自分の横を通り過ぎていくパレードを見物して、麻那と隼人は唖然としながらパレードを眺めていた。
 パレードの参加者たちは彪彦たちに危害を加えるでもなく、ただパレードをしながら通り過ぎて行ってしまった。
 しばらくしてパレードを追いかけるような感じのうさぎが現れた。
 うさぎは水色のジャケットにシルクハット、それにステッキまで持って、耳まで入れるとだいたい一五〇センチほどの身長で、二本足でぴょんぴょん走っている。
 鉤爪を鴉にすでに戻している彪彦はうさぎの耳を掴んで強引に捕まえた。
「人間の言葉をしゃべることができますか?」
「ボクが思うに、人間の言葉をしゃべれるかどうかということより、ボクは早くパレードに追いつかないといけないと思うんだ」
 うさぎは流暢な日本語で先を急いでいること告げるが、彪彦はうさぎの耳を離そうとはしなかった。
「急いでいるのはわかりましたが、どうかわたくしの質問に答えていただきたいのです」
「つまり、それは質問に答えないと、あ、ちょっと待ってください」
 うさぎはそう言うとジャケットのポケットからケータイを取り出した。とても不思議な取り合わせだ。
 耳を掴まれながらうさぎは誰かと話をはじめた。