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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(1)夢見る都

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 全く違う人間なのに、どうして? とその疑問だけは解けなかった。
 枕を抱きしめて、ずっと考え事をしていたら、部屋の前に誰かが歩いて来る音が聴こえた。
 足音は翔子の部屋の前で止まり、コンコンというドアをノックする音が聴こえて、そのすぐ後に翔子の母親の声が聞こえた。
「夕飯とっくにできてるわよ」
「いらなーい」
 ベッドに横になりながら、翔子は気のない返事をした。すると、ドア越しに母親はまだ話し掛けてくる。
「どうしたの、体調でも悪いの?」
「ピザ食べたからお腹いっぱいなの」
「もお……」
 呆れた声を出して母親は行ってしまった。
 遠ざかっていく足音を聴きながら、翔子はため息をついた。
 お腹がいっぱいというのは本当だが、いろんなことを考えすぎて、物が喉を通らないという理由の方が大きい。
 麗慈に告白されて、愁斗が好きだと確認した。けれど、明日から麗慈にどんな顔をして接したらいいのかわからない。翔子はいっそうのこと明日学校を休んでしまおうとも考えた。
 けれど、それは問題の根本的な解決にならないので、翔子の中ですぐに却下された。
「お風呂入ろう。お風呂入って全部水に流……せないよね」
 ため息をつきながらも、翔子は結局お風呂場へと向かった。
 脱衣所についた翔子は服を脱ぎ、お風呂場に入った。
 少しお風呂場は寒かった。床のタイルに足の裏が触れると、全身にゾクゾクと寒気が走る。
 シャワーを出して床を濡らして温め、その後に自分がシャワーを浴びる。
 ボディーソープをスポンジに取って、足の先から上へと洗っていく。そして、全身の泡を流して、お湯に浸かる。
「はぁ〜」
 と思わず年寄りのような声が出てしまう。
 目をつぶり、至福の時を満喫する。
 だが、お風呂に入り目をつぶると、いろいろなこと考えてしまう。お風呂に入っている時と寝る前は、考え事をしたくなくてもしてしまう。
「はぁ〜」
 と今度はため息が出てしまった。
 やはり、翔子は麗慈にどう接していいかわからない。こんな経験はじめて、対処の仕方が全く思いつかない。
 テレビやマンガの恋愛物で、同じような話はなかったかと考えるが、思いつかない。
 お風呂で全部水に流すつもりが、すっかり浸かってしまっている。
 いつもよりも早くのぼせてしまった。そこで、お風呂を出て、少し冷たいシャワーの水を頭から浴びた。
「はっきり言わなきゃ……全部」
 翔子は決心した。麗慈に自分の気持ちをはっきと告げて、そして、愁斗にも……。

 翌朝、教室に入り席につくと、すでに横には麗慈が座っていた。
「おはよ、翔子ちゃん」
「おはよう、麗慈くん。……頬の傷どうしたの? それに制服の上着は?」
 麗慈の頬には切り傷があり、セーターを着ていて制服の上着を着ていなかった。
「この傷は、うちで飼ってる猫に引っ掻かれて、制服は汚れちゃってさ」
「麗慈くんのうち猫飼ってるんだ。いいね、うちもペット飼いたいんだけど、お母さんがダメって言うんだよね」
「うちの猫は躾がなってなくてさ、この有様だよ」
 笑ってみせる麗慈。翔子はその笑顔を信じきっている。
「麗慈くんが何かしたんじゃないの?」
「そんなことないよ、あいつが喧嘩っ早いだけ」
「ふ〜ん。ところで飼ってる猫は一匹だけ?」
「二匹だよ。もう一匹はわけわかんない性格しててさ、まあ、猫っぽいって言ったら猫っぽいんだけどな」
「にゃ〜んと、おはよ、お二人さん」
 声をかけて来たのは撫子だった。それを見た翔子は小さく呟く。
「ここにも猫がいた」
「にゃ〜ん、撫子は猫だよ〜ん」
 翔子は撫子のお尻にしっぽが生えていても可笑しくないと思っている。
「ああっ!?」
 突如、撫子が声をあげて、クラス中の人が振り向いた。
「激ショック! 麗慈クン、その傷どうしたの!?」
「うちの猫に引っ掻かれてさ」
「痛くにゃいの、だいじょぶぅ!? だいじょぶじゃにゃかったら、撫子は夜も眠れません」
 呆れ顔で翔子は撫子を見つめた。
「心配しすぎだよ撫子。騒いでないで自分のクラス帰ったら?」
「もしかして、アタシお邪魔にゃのぉ〜、ふたりの邪魔しちゃった?」
「違うから、もぉ、どうでもいいからクラス帰りなさいよ、先生もうすぐ来るよ」
「えぇ〜っ、だってアタシ一番前の席でさ、先生にロックオンされちゃって、びしばし注意されまくり」
「それって、撫子が授業中に騒いでるからでしょ?」
「うっそ〜、騒いでにゃいよぉ。それに違うクラスにゃんだから、翔子が知ってるわけにゃいじゃん」
「知ってるよ、だって撫子の叫び声が授業中に聴こえてくるもん」
 撫子は翔子のとなりのクラスで、授業中に翔子のクラスが静かだと、撫子の大声がよく聴こえて来ていた。
「爆マジ!? アタシの声聴こえてるの?」
 撫子が横を見ると麗慈が笑っていた。
「そう言えば昨日も聴こえてた。『うっそ〜、爆マジ!?』って叫び声がさ」
「うっそ〜、爆マジ!? それって烈恥ずかしいじゃん」
「恥ずかしいって思うんだったら、授業中叫ぶの止めなさいよ。何だか、私まで恥ずかしくなるでしょ?」
「にゃんで翔子が恥ずかしがる必要あるの?」
「今も恥ずかしいよ。ここで撫子が大声出して、友達として一緒にいると恥ずかしくなるよ」
「えぇ〜っ、翔子ったらアタシのことそんにゃ目で見てたの……爆裂ショック! もう翔子と友達やってける自信ナサナサぁ〜、ぐすん」
 目頭に手を当てて泣いたフリをはじめる撫子。人々の視線が撫子を中心にたくさん集められる。近くにいる翔子と麗慈まで変な目で見られている。
「うあ〜ん、翔子ちゃんが苛めるよぉ〜ん。この学校来てはじめてのお友達だったのに、こんな破局を迎えるにゃんて、劇的展開って感じぃ」
 人々の視線が次第に痛くなり、翔子は耐えられなくなってしかたなく撫子に謝った。
「ごめんね撫子、私が爆悪かったから許して」
「にゃ〜んてね」
 顔を上げた撫子は満面の笑みを浮かべていた。嘘泣きだったのわかっていたが、こんなことをされると腹が立つ。だが、また嘘泣きをされると困るので、翔子は怒りをぐっと腹の中に押し込めた。
「もう、いいから早くクラス帰りなさい」
「だから、今の席イヤにゃんだって。早くクラス替えしにゃいかなぁ。それで、麗慈クンか愁斗クンと同じクラスににゃったら爆ラッキー。そうそう、そう言えばさぁ、愁斗クンまだ来てにゃいみたいだけど?」
 愁斗の姿はまだなかった。もしかしたら、今日も休みなのかもしれない。
 翔子の顔に少し不安の色が浮かんだ。
「愁斗くん、どうしたのかな? もしかして、昨日無理して部活来てたのかな……?」
 チャイムが鳴り、急に撫子が慌て出した。
「烈ヤバヤバって感じぃ。急いで帰らにゃいと遅刻にされるよぉん、てにゃことで、うんじゃ、さらばにゃ〜ん!」
 撫子は軽快なステップで走り去っていた。
 なぜか翔子はどっと疲れた。
「あーっ、何か疲れた」
「撫子ちゃんって、いつでもハイテンションだよな。本人は疲れないのかな?」
「私の知る限りは二十四時間あんな感じ」
 机に突っ伏しながら翔子はそう麗慈に話した。麗慈はそれを聞いて笑みを浮かべた。
「そうなんだ。毎日だと付き合ってる方が死ぬかもな」