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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(1)夢見る都

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 地面を砕き、足をめり込ませながら二人は着地した。
「ククク、地面が少し軟らかいな」
「落ちながら考え事をしていた」
「落ちながら考え事なんて、おまえも頭がだいぶイッてるな」
「組織はどこにある?」
 最大の目的はそこにある。組織への復讐と私怨。紫苑は麗慈のような刺客を待ち望んでいた。
「さあな、俺が知るわけないだろ」
 これは惚けているのではない。麗慈は本当に知らない。そう教育されているのだ。
「では、私が逃げた後の状況は?」
「おまえとおまえの親父がいなくなっても、プロジェクトはまあまあ進んでる。が、俺以降は全部戦力にならない遣いっパシリだ。やっぱオリジナルがいないとダメなんだろ」
「そうか、なおさら貴様を殺す理由ができたな」
「殺れるもんなら殺ってみな。オリジナルにコピーが劣るなんて大間違いだ。俺はただの複製じゃなくって、そこに科学のうんたらのプラスアルファがあるからな」
「その代わりに、魔導の力は削られている。真物を知れ!」
 紫苑の糸が空間に一筋の傷をつくった。その傷は唸り、空気を吸い込みながら広がり、空間に裂け目をつくった。
 闇色の裂け目から悲鳴が聴こえる。泣き声が聴こえる。呻き声が聴こえる。どれも苦痛に満ちている。
 紫苑の腕が前に伸びた。
「行け!」
 完全なる使役。
 裂けた空間から〈闇〉が叫びながら飛び出した。それは麗慈に襲い掛かった。
 〈闇〉に腕を掴まれ、足を掴まれ、胴までも掴まれてしまった。
「な、何だこれは!?」
 身体に纏わり付く〈闇〉振り払おうとするが、妖糸を操る手が動かないのでは、どうすることもできなかった。
「放せ、放せ、放せ、放せ、放せ、放せってイッてんだろーが!」
「〈闇〉に侵食されるがいい」
「これはいったい何だ!」
 麗慈の身体は顔を残して全て〈闇〉に包まれていた。
「ヒトの〈闇〉だ。これがオリジナルの技であり、あやとりで遊んでいるだけのコピーにはできぬ芸当だ」
 次の瞬間には麗慈の身体は全て〈闇〉に呑まれ、〈闇〉は空間の裂け目に吸い込まれるようにして還っていった。
 空間の裂け目は轟と言う音を立てながら閉ざされた。
 戦いは終わった。
 いや、まだだ!
 空間の裂け目から白い手が、こちらの世界を覗いている。
 この場を立ち去ろうとした紫苑の腕が宙に飛んだ。血飛沫が地面を紅く染める。
「クククククククククク……帰還成功だ。オリジナルも大したことないな。詰めが蕩けるくらいに甘すぎる」
 裂けた空間から声がして、手が出て、次に足が出て、麗慈が姿を現した。
「ま、まさか!?」
 この時はじめて紫苑の顔に表情が浮かんだ。
 驚愕する紫苑。まさか、〈闇〉に呑まれたものが還ってくるとは……!?
「ククッ、地獄を生きる俺様が、天国でぬくぬくと生きる紫苑ちゃんに犯られるわけないだろ?」
 残った紫苑の腕が素早く動く。が、妖糸はプツリと切られてしまった。
「俺、ちょっとハイになって来ちゃってさ、もう抑えらんないって感じ……ククク」
 嗤い震える麗慈の目が紫苑を舐め回すように見た。
「クククククク……切り刻んでヤルよ」
 相手の動きが速すぎて紫苑は出遅れた。
 残った腕が飛んだ、
 成す術もなく、やられるがままだった。
 足が切断され、胴が地面に落ちた。それを見て麗慈が舌なめずりをする。
「メインディッシュだ」
 首が飛んだ。美しき女性の頭が宙を舞った。そして、地面に鈍い音を立てて落ち、転がる。
「クククククク……ヤッちゃった」
 麗慈は地面に落ちた頭を蹴飛ばして、嗤った。
「ククククククククク……ククククククク……ククク」
 遠くからサイレンの音が聴こえる。パトカーがこっちに向かって来ているのだ。
 建設中の建物が倒壊した時に、誰かが警察に電話したのであろう。
 警官がこの場に駆けつけた時には、麗慈の姿はなく。残っていたのは地面を染める紅だけだった。

 麗慈から走って逃げた翔子の顔は真っ赤だった。もちろん走っているせいもあるが、それ以上に麗慈のあの言葉が、頭を振っても振っても耳から離れない。
 ――俺は翔子ちゃんのことを愛してるってことさ。
 あれは愛の告白以外の何でもない言葉だ。
 翔子は頭が可笑しくなりそうで、何度も躓きそうになった。
 自分は麗慈くんに告白されてしまった。でも、自分が本当に好きなのは、どっちなのだろうか。翔子の頭の中で二人の男が戦っていた。
 頭の中で戦う二人の男――それはまさにあの演劇と同じであった。しかし、それは翔子の頭の中での出来事。愁斗が自分のことをどう思っているのか、翔子にはわからない。
 二人のどちらが本当に好きなのか、本当にどちらかが好きなのか。真実が全く見えなかった。
 今日はじめて逢ったばかりの男性を好きになって、愁斗への愛は嘘だったのか?
 嘘ではなかった。でも、麗慈のことも好きなんだと思う。そう、二人はの性格は違うけれど、何かが同じような気がする。翔子はそこに惹かれた。
 どこを走ったのか覚えていないまま、翔子は自宅の前に立っていた。
 こじんまりした家だが、一軒やであることには変わりない。
 家の中に入った翔子は二階に駆け上がって、自分の部屋に飛び込んだ。
 部屋に入った翔子はそのままベッドに飛び込む。そして、枕をぎゅっと抱きしめた。
「あーっ、もぉ、何だかわからないよぉ!」
 今まで男性を好きになったことは何度もあったけど、ふたり同時に好きになったことははじめてだった。いつも一途に想い続けて、成就したことなんて一度もなかったと翔子は思った。
 今回は違う。麗慈も自分のことを好きだと言ってくれた……けど、愁斗への想いは消えない。消えるはずがない。
 二人の男性に想いを寄せるなんて、罪の意識を翔子は感じてしまった
 愁斗が二年生のはじめに転校して来て、すぐに翔子は声をかけた。誰よりも早く。
 もちろん、演劇部の部員勧誘のために声をかけたのだが、最初はいい返事がもらえなかった。それでも、声をかけ続けていたら、最初は冷たい態度だった愁斗が明るくなってきて、愁斗は誰にでも優しい人になっていった。転校してきたばかりで、きっと他の人にどう接していいのか、わからなかったのだと思う。
 翔子は愁斗への想いを馳せた。
「優しい愁斗くんが本来の姿だったんだと思う……。笑顔の愁斗くんが好き」
 でも、今日の愁斗は様子が変だった。撫子の言うとおり、今日の愁斗は麗慈を避けているようだった。
 冷めたような表情を時折みせる愁斗は、転校して来た時と同じだ。そして、哀しい顔をする時もある。最近は笑顔だけだったのに、愁斗はどうしたのだろうか?
 愁斗のことを考えると胸が苦しくて、でも、どうしたらいいのかわからくて……。
 自分は愁斗に何もしてあげられないのだろうか……。と翔子が想った時、答えが少し見えて来たような気がした。
 部活の勧誘を何度もして、ついに部活に入ってくれると言った――あの時の笑顔。その笑顔は翔子の脳裏に鮮明に残っている。
「……あの笑顔が一番うれしかった」
 その時、答えがはっきりと出た。
「やっぱり、私は愁斗くんが大好き。麗慈くんへの想いは、麗慈くんが愁斗くんと重なって見えたら……でも、何でだろう?」