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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(1)夢見る都

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「今の私を見たとおり」
 『今の私』とは、机に突っ伏して疲れきった表情をしている翔子のことである。
 しばらくして、先生が教室の中に入って来た。そして、今日もいつも通りの授業が展開されていく。

 放課後になり、翔子は麗慈に声をかけた。
「麗慈くん、部活行こうか?」
「ああ、行こう」
 教室を出て廊下を抜け、ホールの中に入る。
 廊下と違ってここには人がいない。いたとしても演劇部の部員たちだけだ。
「麗慈くん」
「なに?」
「あのね……」
「顔赤いよ」
「えっ、嘘!?」
 どうやら自分でも気づかない間に翔子の顔は真っ赤になっていたらしい。それを指摘された翔子はすぐに顔を伏せた。
 そんな翔子の顔を意地悪く覗き込もうとする麗慈。
「顔下向けることないじゃん」
「止めてよ、覗き込まないでよぉ」
「だって、そんな翔子が可愛いからさ」
「……麗慈くん、そのことなんだけど」
 急に翔子の声のトーンが下がった。
「麗慈くんのこと、嫌いじゃないんだけど、でも、ダメなの」
「やっぱり、秋葉のことが好きなの?」
「うん、だからダメ」
「ふ〜ん。昨日は翔子ちゃんが秋葉のこと好きなら、俺はあきらめるって言ったけど、あれ撤回。俺はいつまでも翔子ちゃんのことが好き、で、絶対自分の方を振り向かせて見せるから」
「えっ、でも……」
 口ごもる翔子を麗慈は壁に無理やり押し付けた。翔子は身動き一つできなくなった。
「麗慈……くん?」
「俺、翔子ちゃんが欲しい」
 麗慈の顔が自分の顔に近づいて来て、はっとした翔子は、麗慈の身体を思いっきり突き飛ばしながら叫んだ。
「ダメッ!」
 押し飛ばされた麗慈は床に倒れ、翔子はその場から居た堪れなくなって逃げだした。
 麗慈から逃げた翔子は舞台に急いだ。誰かにいて欲しいと翔子は思った。麗慈とふたりっきりになるのが嫌だったのだ。
 運良く、舞台では隼人と麻那が他の部員たちを待っていた。
「部長こんにちは、麻那先輩もこんにちは」
 麻那が掛ける眼鏡の奥で瞳が妖しく光った。
「顔が赤いわね、風邪? それとも他に何かあったのかしら……あたしの相談窓口はいつでも開いてるわよ。初回相談料はタダだから、いつでも相談しなさい」
 この言葉に翔子は少し考えた。いつもは即答で断るのだが、今の気分は違った。
「あの、麻那先輩、ちょっと……」
「あら、本当に相談事があるの?」
 翔子は小さくうなずき、それを見た麻那は隼人に言った。
「そういうわけだから隼人、舞台裏に誰も近づけないように」
 麻那は翔子の腕を引っ張って舞台裏に向かった。
 舞台裏は薄暗く、そこを抜けて廊下に出た。
「あの、舞台裏で話すんじゃなかったんですか?」
 舞台裏を通り過ぎて翔子はどこに連れていかれようとしているのか?
 麻那は妖艶な笑みを浮かべた。
「いいとこよ」
「あ、あの変なところに連れ込まれたりしないですよね?」
「さあ、どうかしら?」
「わ、私帰ります」
 逃げようとした翔子の腕を麻那が力強く掴んだ。
「冗談よ、楽屋に行くの」

「でも、楽屋って鍵が掛かってるんじゃないですか?」
 このホールにはもちろん楽屋が存在している。だが、その楽屋は外部から公演に来る人たちのもので、演劇部が使うことは本番当日以外には許可されていない
「あたしと隼人が鍵持ってるの知らなかったの?」
「そうなんですか、でも、なんで鍵持ってるんですか?」
「だいだいうちの部活に受け継がれてるのよ。あたしたちが卒業する時に鍵はあなたに託してあげるわ」
「楽屋の鍵なんて持ってて、何に使うんですか?」
「こういう時みたいに内密の人と話す時とか、後は学校にばれないようにドンチャン騒ぎする時とか、部室でパーティには限界があるからね」
「そうなんですか」
 二人が話しているうちに楽屋の前まで来た。
 麻那が鍵をドアに差し込むと、本当にドアが開いた。
「開いた、本当に開くんですね」
「信用してなかったの? こんなことくだらない嘘つくわけないでしょ」
 二人は楽屋の中に入り、麻那はすぐに鍵を閉めた。
 ガチャという音が聴こえ、翔子は閉じ込められた気分になる。相手が麻那だから、そういう気分がするのだ。
「適当なところに座りなさい」
 床は畳で鏡台やテーブルなどもある。大部屋らしく結構広い。
 翔子が適当に畳に腰を下ろすと、麻那がその前に座った。
「さてと、話を洗いざらい聞かせてもらいましょうか、とその前に――」
 麻那は制服のポケットから二本の缶飲料を出した。一本はコーヒー、もう一本は炭酸飲料水だった。
「どっち飲む?」
「そんなのポケットに入れてたんですか。もしかして、いつでも持ち歩いてるとか?」
「さっきホールの自販で買ったのよ」
 二本買ったということは誰かと一緒に飲むつもりだったのか?
 ちなみに、この学校には自動販売機が職員室前とホール内に設置されていて、生徒も買うことが許可されている。
「じゃあ、PONTAオレンジをください」
「はい、どうぞ。もし、コーヒーを選んでたら屠ってたわよ」
「屠るってなんですか?」
「コーヒー選んでたら、殺ってたってことよ」
 『やってた』という言葉はすぐに翔子の頭の中で『殺ってた』に変換された。
「……コーヒー好きなんですか?」
「別に好きでもないけど、雰囲気」
「雰囲気?」
「悪い?」
 翔子の背中にゾクゾクと寒気が走った。麻那な目が少し恐かった。
「い、いえ似合ってると思います」
「ありがと。じゃあ、話の本題に入りましょうか。で、どうしたの?」
 そう言って麻那はコーヒーを飲みはじめた。翔子もプルトップを引いて、ジュースを飲もうとすると、プシューと少し泡が出た。きっと、麻那のポケットに入っている時に少し振られてしまったに違いない。
 翔子は異様に喉が渇いていたらしく、ぐびぐびっと一気に半分くらいを飲み干して、大きく息を吐いた。
「はぁ〜、あの、実は、愁斗くんと麗慈くんのこと何ですけど」
「ふ〜ん、あんたはどっちが好きなわけ? 今までは愁斗一筋だったのに、昨日は麗慈を見る目が妖しかったわね」
「……そんなにわかりやすいですか、私?」
「顔や行動に出すぎ」
 ちょっと翔子はショックだった。昨日は撫子に図星を突かれて、今日は麻那に突かれてしまった。この分だと、もっと多くの人に自分の気持ちがバレバレかもしれないと、翔子は焦った。
「あの、どのくらいの人にバレてると思いますか?」
「それは地球の人口比で言った方がいいかしら、それとも演劇部内限定で言った方がいいのかしら?」
「演劇部内でお願いします」
「そうね、あんたが愁斗のことを好きだと思ってる人は八割くらいかしら。麗慈の方はまだあんまり気づかれてないと思うから気をつけなさい」
「ほぼ全員じゃないですか」
「でも、愁斗は演劇部&学校のアイドルだから、好きな人いっぱいいるし、あんたもその中のひとりってことで、そんなに気にしなくてもいいと思うわよ」
 翔子は黙り込んでしまった。『その中のひとり』という風に括られてしまったことがショックだったのだ。自分は他の人とは違うという感情が翔子の中にはある。