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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(1)夢見る都

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 思わぬ発言に翔子は戸惑ってしまった。彼女はふたりをよく見ていたから、今日のふたりが口を聞いていないこと、目線を合わせなかったことを知っていた。愁斗は明らかに麗慈のことを避けていた。
「そういえば愁斗クン烈機嫌悪そうだったかもねぇ〜、もしかして、麗慈クンに嫉妬だったりしてね」
「俺に、どうして?」
「愁斗クンの専門家の翔子ちゃんに聞いてみたらぁ〜。じゃあ、アタシはあっちだからおふたりさん、さらばにゃ〜ん」
 Y字路に差し掛かったところで、撫子はふたりと別の方向に走っていってしまった。残された翔子はひとりで気まずい雰囲気になる。
 翔子は最後にあんなことを言い残した撫子を少し恨んだ。
「何で別れ際にあんなこと言うかな……」
「ところで、愁斗クン専門家って何のこと?」
「え、いえ、あの、別に専門家じゃないです!」
 しどろもどろになった翔子の顔は真っ赤だった。それを見た愁斗は笑みを浮かべる。
「もしかして、翔子ちゃんって秋葉のことが好きなの?」
 あまりにもストレートな言い方に翔子は頭の中が真っ白になった。
「あ、あ、あああ、あの、別に……」
「わかりやすいな翔子ちゃんは、そんな翔子ちゃん、好きだよ」
 優しい笑顔で見られた翔子の頭は爆発した。
「えぇーっ!? あの、なに、今の!」
「俺は翔子ちゃんのことが好きなのに、翔子ちゃんが秋葉のこと好きなら……あきらめるしかないな」
「だから、それって、どういう意味!?」
 聞かなくても、相手の反応を見ていればわかるが、それでも?好き?という意味を聞かずにはいられなかった。
「俺は翔子ちゃんのことを愛してるってことさ」
「…………」
 はっきり言葉に出されると、もう何も言えない。翔子その場に固まってしまった。
「大丈夫翔子ちゃん?」
「…………」
「俺の声聞こえてるよね?」
 麗慈は自分の手のひらを翔子の目の前で上下に動かすが、反応がない。
「大丈夫?」
「…………」
「動けないなら、おぶって行こうか?」
 この言葉に翔子ははっとした。今の状態で麗慈におぶられるなんて、自分がどうなってしまうかわからない。
 まだ動けずにいる翔子の肩に麗慈の手がそっと触れた。
「きゃっ!」
「あ、ごめん」
「……あ、あのごめんなさい!」
 翔子は顔を真っ赤にしたまま逃げるようにして行ってしまった。
 残された麗慈は悪戯な笑みを浮かべた。そして、麗慈は何事もなかったように無表情な顔をしてひとりで歩き出したのだった。

 住宅地を抜けて、ビルかなにかであろう巨大建造物の建設現場の前で、鋭い目つきをした麗慈の足が止まった。
 回りに人がいないことを確かめた麗慈は建設現場の中に入って行く。
 人の気配はない。鉄骨やそれでできた建物の骨組みがあり、クレーン車などの重機がある。
 誰もいないはずの建設現場で、麗慈は声をかけた。
「ずっと見張っていたんだろ、そろそろ出て来いよ」
 秋風が吹いた。それと同時に物陰から茶色い布を羽織った人物が姿を現した。布はフードのようになっていて、顔はよく見えない。
 謎の人物を確認した麗慈は嗤った。
「ひさしぶりでいいかな、紫苑」
「挨拶はいらない。これは愚問だが、なぜ貴様は私の前に現れたのだ?」
「自分で愚問だって言うなら、わかってるだろ。おまえを殺りに来た、ククッ」
 殺伐とした空気が二人の間に流れる。部外者がここにいたならば、息もできないくらいに苦しい空気だ。学校では見ることのできなかった麗慈がそこにはいた。
 紫苑が麗慈に一歩詰め寄る。
「では、なぜ私をすぐに殺さない?」
「俺はいつでもおまえを狙っている。そして、俺はいつでもおまえを殺せる。だから殺らない」
「目的は自己の欲求を満たすためか?」
「気まぐれさ、おもしろいやつらがいっぱいで、嗤い転げるほど楽しい。俺はもう少し学校生活ってやつを楽しみたい。おまえを抹殺したら地獄に逆戻りだろうからな。だからおまえもいつでも俺のことを殺そうとしていいぜ」
「では、今だ!」
 細い線が煌いた。麗慈の頬に紅い線が走る。
「危なかったな、おまえのテンポが遅くなかったら、俺の首は宙を舞ってたな」
「次は外さん」
 再び線が宙に煌く。だが、それは輝く線によってプツリと切られ、揺ら揺らと地面に舞い落ちた。
 地面に落ちたそれは、細い糸であった。
 紫苑の操る武器――それは魔導具である妖糸であった。そして、麗慈の操る武器もまた妖糸である。
「クククッ、古の血を受け継ぐ魔導士も、現代の科学には形無しだな」
「それは違うな。貴様は出来損ないのコピーだ」
「俺様が出来損ないだと!? 訂正しろ、俺は完璧だ、完璧だ、完璧だ!」
 狂気ならぬ狂喜に打ち震える麗慈は高らかに嗤った。
「クククククククククク……」
 狂った麗慈の手から妖糸が放たれた。
 茶色いぼろ布が裂けた。
 しかし、紫苑は上空を舞い、建設中の建物の骨組みに降り立った。その飛翔距離、実に一〇メートル以上。人間とは思えない業だ。
「ククッ、逃げるなんて卑怯だぞ、かかって来い!」
 紫苑が宙を舞い降りてくる。襤褸布が風に揺れ音を立てる。
 頭上から襲い掛かってくる紫苑を向かい撃つべく麗慈の手が動く。
 地面に落ちていた鉄骨が宙に浮いた。麗慈が妖糸で持ち上げたのだ。その光景はまるで魔法を見ているようだ。
 鉄骨が矢のように飛び、舞い降りる紫苑の腹に直撃した。
 鈍い音が鳴り響く――骨や内臓が砕けたのかもしれない。
 トラックに轢かれたような衝撃を受けた紫苑の身体は高く吹っ飛んだ。
 上空で紫苑の身体が回転する。そして、落下。
 蛙のような格好になりながらも紫苑は地面に着地した。なぜ、紫苑は動くことができるのか?
 蛙飛びをした紫苑が麗慈の横を掠め、その瞬間に麗慈の胸を切った。しかし、紫苑が狙ったのは腕であった。
 制服が切られ、そこから鮮血が滲み出す。
「ククッ……制服を切るのは止めてくれないか? 一張羅なんでね、明日から学校に行くのに困ってしまう、ククッ」
 麗慈は余裕であった。彼は明日も何食わぬ顔をして学校に行く気だった。
 紫苑の手が煌いた。
 妖糸が針のようにして幾本も麗慈に襲い掛かる。それを麗慈は軽々とアクロバットを決めて避けながら、紫苑に近づいた。
 白い腕が紫苑の顔を掴んだ。否、顔ではなく、別の物を掴んでいた。
 対峙する二人。麗慈の腕の先にあるもの――それは仮面であった。
 そして、麗慈の手は獲物を?む鷲のように、真の顔を隠す仮面を剥ぎ取った。
 なんと、そこには美しい女性の顔があった。
 糸が煌く。麗慈は慌てて後ろに飛び退いた。
「クククククククク……雌の顔か。はじめて見た顔がそんな顔だったとは、可笑しくて笑っちまうな。本物はどこだ?」
「私が紫苑だ」
 玲瓏たる声を発した紫苑に、麗慈は仮面を投げつけ走った。
その後を紫苑が追う。
 建設中の鉄骨の上を飛び回る麗慈に妖糸が浴びせられる。だが、鉄骨が切断されるだけで、麗慈は無傷だ。
 建物が揺れた。行く本もの柱を切られたために建物は崩れようとしている。
 大きく建物が揺れた、そして――轟音を立てながらついに倒壊した。
 二人は同時に空にジャンプした。地面との距離は三〇メートル以上ある。