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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(1)夢見る都

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 新入部員が部活に対して悪いイメージを抱くかもしれない――それが翔子には心配だった。せっかく部活に入ってくれたのに、辞められては困る。
 だが、麻那はジュースを飲みながらさらりと言い放つ。
「弱肉強食よ――人生、強いやつが生き残っていくの。ジャンケンという勝負は学生時代には、ポピュラーな勝負方法よ。それに勝たなくてどうするの?」
「はい?」
 翔子は思わず口をぽかんと空けてしまった。麻那の言っていることは、イマイチ理解できなかった。
 撫子はお菓子の袋をひとつ持って、部室を飛び出そうとした。
「じゃあ、アタシは麗慈クンのところ行って来るにゃ〜ん」
 部室を出て行く撫子の後ろ姿を見て、翔子ははっとした顔をした。だが、すぐに気持ちを切り替えて愁斗の方を振り向くが、愁斗の回りにはすでに三人組の女子がまとわり付いている。
 その場に立ち尽くしてしまっている翔子に部長が声をかけた。
「ずっと立っていないで、座ったらどうですか?」
「あ、すいません」
 声をかけられてはっとした翔子は近くにあった席に腰掛けた。
 席についた翔子に隼人よりも先に麻那がジュースを注いだ。麻那がこんなことをするなんて、珍しいことだ。
「困ったことがあるなら、いつでも麻那お姉様に相談しなさい。相談料を弾んでくれればいい答えをあげるわよ」
「相談料取るんですか?」
「初回はタダにしてあげるわよ」
 悪戯な笑みを浮かべる麻那。こんな人に相談なんてしたら、それを弱みに一生強請られそうだ。
 しばらくしてMサイズのピザを三枚持って、麗慈と撫子が部室に戻って来た。
「お待ちぃ〜、ピッツァの到着だよ〜ん」
 ピザが到着したことにより、パーティーに華ができた。
 麗慈は翔子の横に座り、撫子は麗慈の横に座った。つまり、麗慈は翔子と撫子に挟まれる形となった。
 一息ついた麗慈は、腕を伸ばしておつりを隼人に渡した。
「これ、おつりです」
「はい、どうも」
 隼人そう言いながら撫子を見つめた。お菓子のおつりはどうしたの? という意思表示だが、撫子は知らん顔をしている。
 撫子を見つめる隼人の意思を感じ取って翔子が弁解した。
「えっと、予算オーバーしちゃって私が少し出したので、おつりはないんです。ごめんなさい」
「あ、いや、別に謝らなくてもいいよ。こっちこそごめんね、翔子ちゃんにお金出させて」
「でも、部長だけにお金出させるなんて……」
「いちよう僕は年長者だし、それにお金を出し――痛いっ!」
 急に隼人は声をあげて、横に座っていた麻那の顔を見た。もしかして、見えないところで麻那に足でも蹴られたのかもしれない。ということは、麻那もお金を出したのかもしれない。
 部室の中に誰かが入って来た。部員たちは少し焦る。パーティーをしているのが部外者にバレるとマズイ。
 だが、部室に入って来たのは顧問である森下麗子先生であった。
「あなたたち、盛り上がってるかしら?」
 入って来たのが森下先生で、部員たちは一斉に息を吐いた。
 森下先生は撫子を無理やり退かして、麗慈の横に座った。
「麗子先生、それは職権乱用ですよぉ〜」
「ハイハイ、顧問に口答えしない。私は新入部員に興味があるの」
 紙コップを手に取った森下先生は、誰かに注げと目で訴えている。それに麗慈がすぐに反応する。
「なにを飲みますか?」
「お酒はないのかしら?」
「あるわけにゃいじゃん、爆横暴教師!」
 撫子は森下先生の真後ろに立って、うらめしそうな顔をしてそう言った。だが、森下先生は完全に無視だった。
「じゃあ、お茶でいいわ」
 お茶をコップに注ぐ麗慈を森下先生はうっとりした瞳で見つめていた。他に誰もこの場にいなかったら、食いつきそうな目でもある。
「いい男ね。演劇部に華が二輪も咲いちゃって……嵐が来なければいいけど」
 嫌な含みを持たせる森下先生に麗慈は聞いた。
「嵐とはどういうことですか?」
「だって、いい男が二人もいたら、取り合いになって派閥でもできて、部活崩壊なんてこともありえるわよ。現にね」
 森下先生は愁斗を中心に群がる女子三人組とこっち側を見て、再び口を開く。
「まあ、今日は一日目だから、今後の展開が楽しみね、ふふ」
 悪戯ね笑みを浮かべる森下先生。それを見て翔子は少し不機嫌な顔をする。
「部活崩壊なんて言わないでください。せっかく、ここまでやって来たのに……」
 演劇部は翔子が一年生に入った時から弱小部で、二年目の今年はいい雰囲気で来ているのだ。それを崩壊だなんて、ひどい。
 少しの間、殺伐とした空気が流れたが、その後はどんどんパーティーは盛り上がっていった。

 森下先生が乱入して来たことにより、パーティーはドンチャン騒ぎとなり、やがて終わりを迎えた。
「あなたたち、そろそろ下校しなさい。部員の帰りが遅いと私の責任問題になるのよ」
 一番騒ぐだけ騒いでいた森下先生がそう告げると、ちらばったお菓子の袋などを全員で片付けはじめた。
 ゴミを見て森下先生が忠告をする。
「ゴミは各自持ち帰りよ、間違っても学校のゴミ箱になんか捨てるんじゃないわよ。わかったわね」
 みんな適当に返事をするが、ゴミを持ち帰るのは少し嫌な感じがする。そのことをわかっている隼人はゴミ袋を全部自分の方に回収しはじめた。
「僕が持ち帰るから」
 それを聞いて翔子は慌てる。
「ダメですよ、部長ばっかり」
「いや、いいって、僕にできるのはこんなことぐらいだからね。じゃあ、みんな解散」
 部長の言葉を合図にみんな帰っていく。
 森下先生がまず部室を出て行き、愁斗がその後を足早に帰って行き、女子三人組も帰って行った。
 身体を伸ばして大きなあくびをした撫子は翔子の方を振り向いた。
「じゃあ、アタシたちも帰りますか」
「うん」
「アタシと翔子で帰るけど、麗慈クンも一緒に帰るぅ?」
「俺も? いいよ、一緒に帰ろう」
 部室を出て行く三人に隼人が手を振る。
「じゃあね三人とも、また明日」
「お疲れ様でした」
 翔子は隼人に頭を下げて、二人とともに部室を後にした。
 廊下を抜けて、下駄箱に来ると、外からの秋風が昇降口に流れ込んで来た。
 外はすっかり黄昏色に染まり、秋の哀愁が漂っていた。
 グランドでは運動部が練習をしている。それを尻目に三人は学校の正門を抜けた。
「爆楽しかったよねぇ〜」
 撫子はお腹をパンパン叩きながらそう満足そうに言った。楽しかったというより、お腹いっぱいといった感じである。
 麗慈は遠い空を無表情に眺めているので、翔子はそれが少し不安になる。
「麗慈くん、もしかして楽しくなかった」
「え、ああ、楽しかったよ。ひさしぶりにおもしろかったかな」
 笑顔でそう答えているが、本当にそうだったのか、少し疑問が頭に過ぎる。
「本当に楽しかった? 撫子にまとわり付かれて迷惑だったとかないよね?」
「ひっど〜い翔子。アタシは麗慈クンを楽しませようとがんばってんだよ」
 顔を膨らませる撫子を見て麗慈は笑顔を浮かべた。
「楽しかったよ、本当に……ただ」
 麗慈は寂しそうな顔をした。
「俺、秋葉に嫌われてるのかな?」