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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(1)夢見る都

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「では、友人として申し上げさせて頂きます。ですが、これはわたくしの個人的な意見ゆえに、聞かれたらすぐに忘れてください」
「…………」
「わたくしはアリア様とフロド様がご一緒になると信じておりました。いいえ、そうなって欲しかったのです。本当はこんなことを申し上げてはいけないのでしょうが、三日後に迫った婚姻式を破談させたいとも思います。――ですが、わたくしにはそんなことはできません」
 婚姻式を破談させるなどという話を聞いて、アリアは深く悩んだ。そして、深く考えた末に答えた。
「メサイ様はあなたの考えているほど悪いお方ではないわ。わたくしをとても愛してくださいます」
「……嘘です。アリア様は嘘をついておられます」
「わたくしは嘘などついておりませんわ!」
 怒鳴り声が静かな聖堂に響き渡った。これは侍女に言ったのではなく、自分を言い聞かせるものだった。
 侍女は全てわかっていた。だからこれ以上はこのことには触れなかった。
「アリア様、帰りましょう」
「わかりました」
 二人はそれ以上会話をすることなく、この聖堂を後にして行った。

 舞台の照明が一気に明るくなった。
「ここでいったん止めましょう」
 隼人の声が舞台に響いた。
 すると緊張が解けたのか翔子が深く息を吐く音が舞台に響いた。
「ふう、衣装のお腹回りが少しキツイんだけど?」
 アリア役を演じていた翔子はそう撫子に訴えた。アリアの衣装を作ったのは裁縫が得意だと自負した涼宮撫子だ。
「そんにゃハズにゃいよぉ〜、三週間前に翔子のウェスト測ったじゃん」
 三週間に役者全員のサイズを測って撫子が全ての服飾を作ったのだ。そして、その服飾ができあがり、役者たちは今日はじめて衣装に袖を通したのだ。
「でも、キツイんだもん」
「それって、翔子が太ったんじゃにゃいの?」
「ひど〜い!」
「じゃあ、翔子以外にサイズがあってにゃいひと手上げてぇ〜」
 撫子がそう聞くと手を上げたのは翔子だけで、他のみんな首を横に振った。
 自分の採寸と裁縫技術が正しいことを確信した撫子は満足げな笑みを浮かべた。
「じゃあ、そういうことで翔子はダイエットってことで、よろしく♪」
「……う、うん」
 翔子が不満げに押し黙ったところで、隼人は全員の気を引くために手を叩いた。
「はい、じゃあ、翔子さんはダイエットをするってことで一件落着ですね。え〜と、翔子さんが祈りを捧げるシーンで、侍女役の早見さんの出るのがちょっと遅かったかな。たしかにあそこは間が必要なんだけど、動きも会話もないシーンって観客に結構不安を与えるんだよね。だから、もうちょっとだけ早く出てみてください」
「はい、わかりました」
 麻衣子が返事をしたのを確認した隼人は話を続ける。
「それで、秋葉くんはいつもよりよかったと思うよ……。雪村くんの演技がよかったせいかな?」
 愁斗の演じるフロドの敵役であるメサイ役は、今日休んだ須藤が演じる役なのだが、今日はその代役を麗慈がした。
 麗慈はひとりだけ制服で台本を片手に持って演技をしていたが、その演技は迫真の演技だったと言えた。本当に愁斗と麗慈は仲が悪いのではないかと思わせるほど、二人は役に入り込んでいたのだ。
 新入部員の思わぬ活躍に撫子は麗慈をはやし立てた。
「烈すごかったよ麗慈クンの演技。麗慈クンってさあ、演劇とかやってたの?」
「まあな。それよりも、今の烈ってなに?」
「超に変わる新アレンジだよぉ」
 撫子は常にテンションが高く、撫子語という特殊言語を操る。
 みんなが集まる輪からひとり外れて立っていた愁斗に、麻那が近づいていって声をかけた。
「今日の愁斗、ちょっと変ね。何かあったの?」
「いいえ、何もないですよ」
 返事には少し冷たい響きが含まれていた。
 明らかにいつもと違う愁斗の雰囲気に、麻那は珍しいものを感じて微笑する。
「新入部員クンが気になるとか?」
「いいえ、違いますから、気にしないでください」
「いつもは優男クンなのに、今日はちょっとトゲがある感じじゃない? これが本性なのかしら?」
「……さあ、僕にもよくわからないんですよね」
 惚けているわけもなく、翳のある表情をする愁斗に対して、麻那は素っ気無く言った。
「ふ〜ん、麗慈に嫉妬とかしてるんじゃないの?」
「どうして?」
「好きな女の子を取られそうでに決まってるじゃない」
 悪戯にそう言う麻那の視線の先には、麗慈と楽しそうにおしゃべりをする女子生徒の姿が映っていた。
 からかわれた愁斗は何の反応も示さずに、仮面のような無表情な顔をしていた。
 相手の反応がなく、つまらなくなった麻那は隼人のもとへ向かった。
「隼人、今日の部活動はこれでお開きにしましょう」
 この言葉を聞いた部員たちは少し驚いた顔をした。公演が近いのに早めに練習を切り上げるなんて、どういうことだろうと思ってしまった。
 しかし、部長である隼人は麻那の要求をすんなりと呑み込んだ。
「じゃあ、今日の練習はこれでおしまい。ということで、涼宮さんが入部した時みたいに――」
 隼人が言い終わる間に、それをされた本人である撫子がいち早く反応した。
「アタシの時みたいに、麗慈クンの爆歓迎会するんですよねっ!」
 撫子の言葉に隼人はうなずき、それを見た撫子は隼人に手を差し出した。
「はい、部長」
「なに?」
 撫子の手には何も乗っていない。つまり、何かをくれという意思表示だ。
「お菓子とか買って来ますから、お金くださいよぉ」
「いや、あのさ、ピザでも注文しようと思ったんだけど……」
「じゃあ、ピザも注文してください。アタシと翔子でお菓子とか飲みもの買って来ますから、ねっ?」
 人懐っこい満面の笑みで、撫子は手のひらを隼人の腹に差し込んでグリグリした。笑いながら隼人を脅迫しているのだ。
「あはは、涼宮さんには負けましたね」
 と言って、嫌な顔もせず隼人はポケットから財布を取り出し、千円札を二枚取り出して撫子に渡した。
「これで足りるでしょ?」
「二千円ですかぁ〜、ケチッ」
「ピザもあるから、そんなにいらないと思いますよ」
 しぶしぶ撫子は納得して、素早い軽やかな身のこなしで動き、有無を言わせないままに翔子の腕を掴んだ。
「行くよぉ〜ん、翔子」
「本当に私も行くの」
「もちちだよ」
 『もちち』とは、『もちろん』と言う意味である。
 翔子の腕を強引に引っ張っていく撫子の背中に隼人が声を浴びせた。
「部室で歓迎会だからね」
「わかったにゃ〜ん♪」
 まさに猫撫で声で撫子は翔子を引きつれ飛び出して行ってしまった。

 翔子たちの通う星稜中学は昼食がお弁当で持参であり、朝の登校中に学校のすぐ近くにあるコンビニで、昼食を買ってくる生徒たちが多い。そこまではいいのだが、下校時にもコンビニに立ち寄る生徒が多いために、溜まり場となっていることが問題になっている。
 コンビニに到着した二人は辺りを見回した。たまに教師たちが校外パトロールをしていることがあるからだ。
 辺りを確認し終わった二人はコンビニの中に入った。
 翔子が買い物カゴを持ち、撫子がその中にどんどんお菓子や飲み物を入れていく。