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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(1)夢見る都

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 演劇部は人数が少ないため、ギリギリの配役で公演の演習をしているため、ひとりでも抜けたらろくな練習ができない。もし、本番の日に休まれたりしたら、もっと最悪な事態になってしまう。
 隼人は腕組みをして、少し困った顔をしている。
「おかしいなあ、須藤[スドウ]くんはいつも早く来るんだけど、もしかして休みとか?」
 隼人に顔を向けられて質問された一年生の女子三人組は首を横に振り、麻衣子が代表をして答える。
「私たち、須藤くんと違うクラスなので知りません」
 この三人組は同じクラスで、須藤も一年生なのだが、別のクラスなので全く交流がないのだ。
 二人の部員が来ないことに麻那は少しカリカリして、腕組みをしていた。
「はぁ、まったく、主演の二人がいないでどうするのよ。翔子、愁斗はどうしたの? あなた同じクラスでしょ?」
「愁斗くんなら学校来てませんでしたけど……」
「休みなの? じゃあ、まあしかたないわね」
 しぶしぶ麻那は納得した。
 愁斗は今までの練習を一度もさぼることなく一生懸命やっていた。学校を来ていないのなら、それなりの事情があるのだと納得するしかない。
 だが、主演の二人がいなくては、練習がほとんどできない。
 その時だった。この場にひとりの男子学生が現れたのは!?
「遅れてすいませんでした」
 この場に飛び込んで来たのは、学校を休んだはずの秋葉愁斗だった。
 クラスにも顔を出さなかった愁斗の顔を見て、翔子はびっくりしてしまった。
「愁斗くん、学校休んだのに……部活は来たの?」
「うん、僕が休むとみんなに迷惑かかるでしょ?」
「でも、病気とかじゃないの?」
「大丈夫だよ。少し大事な用があって学校を休んだだけだからね」
 柔らかな表情をしていた愁斗の顔が、麗慈と目が合った瞬間に、少し凍りついたのを翔子は見逃さなかった。だが、そのことには触れずに、翔子は改めて部員たちに麗慈の紹介をはじめた。
「あ、こっちにいるのは雪村麗慈くん。今日からうちの部員になってくれたの」
「雪村麗慈です。よろしくお願いします」
 カッコイイ新入部員を見た三人組のひとりである、沙織がはしゃぎはじめた。
「きゃ〜、麗慈センパイってカッコイイですね。愁斗さんに負けず劣らずって感じですぅ。沙織、この部活入ってよかったなぁ」
 少々はしゃぎすぎの沙織の横に立っていた久美が、ため息混じりに言った。
「あんた、はしゃぎすぎ。愁斗先輩目当てで部活に入って、雪村先輩まで入って来てくれてラッキーって顔いっぱいに書いてあるわよ」
「そんなことないよぉ。沙織は演劇がやりたくて、この部活に入ったんだよぉ」
「どうだかねえ」
 沙織を見る久美の眼差しは冷たい。
「何その目は、久美ちゃん沙織のこと疑ってるの? ひっど〜い。そういう久美ちゃんは何で演劇部なんて入ったの?」
「私はどの部活でもよかったんだけど、あんたが演劇部に入るっていうから」

 二人の会話を遮るように隼人が手を叩いた。
「はいはい、おしゃべりはそこまでにして、みんな練習はじめるよ」
 翔子が質問をするために手を上げた。
「あの、部長、メサイ役は誰がやるんですか?」
 メサイとは今日休んでいる須藤がやるはずの役名だ。
 隼人はすでに答えを考えていたらしく、手に持っていた台本を麗慈に手渡した。
「はい、これが台本。セリフを読むだけでいいから」
「俺がですか?」
 思わぬことに麗慈は驚いた顔をした。だが、隼人は麗慈に代役をやらせる気が満々だった。
「棒読みでもいいから、協力してよ、ね?」
「はい、わかりました」
 台本の表紙に印刷された演目の名は『夢見る都』。
 ――こうして演劇部の今日の練習がはじまった。

 薔薇の聖堂で二人の魔導士――フロドとメサイは対峙していた。
 フロドは姫アリアを奪い返すため、メサイは婚約者アリアを守るため。
 二人の間に挟まれたアリアは困惑した。
「お二人とも、お止めになってくださいまし。フロド様、わたくしはメサイ様の妻になると天に定められたのでございます」
「何が天命だ、親が勝手に決めた縁談が天命だと言うのか!?」
「フロド様、わたくしは……」
 それ以上言えなかった。アリアにはそれ以上の気持ちを口に出して言うことができなかった。
 親同士が決めた縁談。だが、メサイはアリアを心から溺愛していた。
「私はアリアを愛しておるのだ。貴様などにアリアを渡してたまるか!」
「私とてアリアを愛している。そして、アリアも――」
「お止めになって、フロド様!」
 アリアの叫びも空しく、フロドはメサイに飛び掛かり相手を押し倒していた
 床に背中をついたメサイにフロドは手を上げた。
 その時だった!
「止めて!」
 聖堂内にアリア悲痛な叫びが響き渡る。アリアの瞳からは涙が頬を伝わり地面に零れ落ちている。
 正気に戻ったフロドは、あと一歩のところでメサイに手を振りかざすのを止めた。アリアが涙を流さなければ、必ずやフロドはメサイに手傷を負わせていたに違いない。
「メサイよ、今日のところは引くが、私はアリアをあきらめたわけではない。必ずやアリアを私のものに……」
 フロドはマントを翻し、静寂に包まれた聖堂から去って行った。その姿を見るアリアの瞳には先ほどとは違う涙が浮かび、とても儚い表情をしていた。
 アリアを見るメサイはとても哀しい表情をしていた。
 メサイとて、アリアとフロドの仲は知っていた。しかし、メサイはアリアを愛してしまった。そして、何があろうとも自分の手に入れたい大切なものなのだ。
「わたくしはもう少しここに残りますゆえ、メサイ様はお先にお帰りになられてくださいませ」
 このアリアの言葉にメサイは少し躊躇したが、しかたなく承諾した。
「わかった、私は先に帰ろう。だが、遅くならぬように気をつけるのだぞ」
「わかりました」
 アリアがうなずくのを見てメサイは去って行った
 静かな聖堂に残されたアリアは床に膝をつくと、指を組み神に祈りを捧げた。
「わたくしは、わたくしは、あの方を愛しております。それは罪なのでしょうか?」
 神は答えてはくれなかった。
 沈黙が辺りを包み込み、時間が過ぎてゆく。
 目をつぶり祈り続けるアリアのもとへひとりの女性が歩み寄って来た。
 聖堂に響く足音を聴き取ったアリアは、目を開けて顔をその方向に向けた。そこに立っていたのはアリアの侍女であった。
「お帰りが遅いので心配になり、様子を見に来てしまいましたが、どうやらお邪魔だったようでございますね、申し訳ございません」
「いえ、いいのですよ。あなたが謝ることではありませんわ。あなたはわたくしの侍女である前に、大切な友人ですもの」
「温かいお言葉、大変に嬉しゅうございます」
 侍女はにっこりと微笑んだ。それを見てアリアも笑みを浮かべるが、どこかぎこちない感じがする。
 侍女は聞くべきでないとわかっていても、友人として聞いてしまった。
「悩み事がおありなのですか?」
「ええ、わたくしは深く悩み、その悩みに胸を酷く苦しめられています」
「わたくしは恐らくアリア様の悩みの原因を知っております。ですが、そのことに私めが口を挟んでいいものか……」
「わたくしに意見を言ってくれるのはあなたしかいないわ」