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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(1)夢見る都

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 やはりこの塔で紫苑に課せられることは、全て組織がデータを取るための実験というわけらしい。
 紫苑は螺旋階段を駆け上った。今度は岩が転がって来ることはなかった。その代わりに上からは腐臭を辺りに撒き散らすゾンビ兵たちが下りて来た。
 妖糸が煌き、一瞬にしてゾンビたちは細切れにされた。
 上に行こうとする紫苑の足に切断されたゾンビの腕を掴みかかろうとしたが、紫苑によって蹴飛ばされ螺旋階段の下へと落ちて行った。
 出口は近い。次こそ最上階か?

 塔の屋上は強風が吹き荒れ、その中で麗慈は形のいい唇をニヤリと崩しながら立っていた。
「思ったよりは早かったけど、それでも俺をイライラさせるだけの時間はかかったな。もう少しで人質を殺しちまうとこだった」
 麗慈の後ろには十字架に磔にされた翔子の姿があった。首が垂れ下がり、気を失っているらしいことが見て伺える。
「貴様のお遊びに付き合っていられるほど私は暇ではないのでな、一気に形を付けてやろう」
 妖糸が煌き空に魔方陣を描いた。
「させるか!」
 空に描かれた魔方陣に妖糸を放つ麗慈。してやったりと歪んだ笑みを浮かべた麗慈だったか、紫苑の仮面の奥からこんな声が聴こえて来た。
「囮だ」
「何だと!?」
 二つ目の魔方陣がいつの間にか地面に描かれているではないか!
 石畳に描かれた紋様に深奥で〈それ〉が呻き声をあげた。
 〈それ〉の呻き声によって、地震が起きたように地面が激しく揺れ、石巨人がこの世に創り出された。
 体長五メートルを超える石巨人の拳がブゥォンと横殴りに振られた。
 麗慈がしゃがみ込み攻撃をかわすと、石巨人はもう一方の拳で麗慈のことを叩き潰そうとした。
 後ろに飛び退き敵の攻撃をかわした麗慈の視線の先には、粉々に砕かれ穴の開いた石の床があった。
「ククク、攻撃力は大したもんだがな、そんな亀みてえなのろまヤロウの攻撃なんて喰らわねえんだよ!」
「では、私の攻撃はどうだ」
 前にいる石巨人に気を取られていた麗慈であったが、背後から迫る殺気に気がつきすぐさまそれをかわした。
 妖糸が麗慈の髪先を少し切断した。
「おまえの攻撃も簡単に避けられるぜ、ククク……。それに前に殺り合った時よか攻撃のスピードが落ちてるんじゃねか?」
「貴様を殺せればそれでいい」
「殺れるもんなら殺ってみな」
 石巨人の身体が麗慈の妖糸によって細切れにされ、バラバラと地面に落ちた。
 天高く飛び退きながら麗慈は妖糸を放った。紫苑の妖糸がそれを切断する。
 疾走する紫苑。麗慈の真後ろには霧に深い空が広がっている。足の踏み場がないということだ。
 互いの妖糸が煌き地面にはらりと舞い落ちた。
 一瞬のうちに麗慈は紫苑の右手をしっかりと掴んでいた。紫苑の左手は動かない。紫苑の妖糸は完全に封じられた。
「傀儡師が糸を使えなきゃ、ただの人間だ」
 紫苑の腕が大きく引っ張られ、遠心力によって宙に浮いた紫苑の身体は遥か底へと落ちていった。
 塔の底に落とされては紫苑とて生きてはいないだろう。
 つまらなそうな顔をする零慈の身体が少し振動した。
 麗慈が振り向いたその先にはあの石巨人が立っていた。
「何でまだ生きてやがるんだ!」
 横殴りに振られた石巨人の腕を妖糸が切断した。だが、地面に落ちた腕は磁石が引き寄せられるようにもとの位置に戻ってしまった。
「クソっ、不死身かこのバカ巨人は!」
 この石巨人には核があり、それを壊さなくては砂になろうとも復活する。
 妖糸の舞。鞭のようにしなり、槍のように突き、剣のように切り裂く。
「クククククククク……ククク……」
 嗤いながら麗慈は石巨人を細切れにしていく。
 床に散乱する石の破片の中に麗慈は妖しく輝く石を見つけ出した。
「み〜つけた……ククク、手間取らせやがって」
「その言葉を返してやろう」
 塔の下から舞い戻った紫苑は、そのまま天高く飛翔して麗慈の頭上向かって降下して来た。
「ククク、生きてたのか」
「外れた肩を戻すのに手間取った」
 二人の間に閃光は走り、血潮が床を彩った。
 斬られたのは麗慈だった。彼の右手首が地面に転がっている。
「クククククククク……この痛みは快感だな。ククク……俺の負けだ、さっさとヤッちゃってくれよ」
 麗慈は紫苑とは違い、右手からしか妖糸を出すことができない。つまり右手首を切断された麗慈は負けを認めるしかなかった。
 床に座り込んだ麗慈を見下ろす紫苑。仮面の奥で紫苑は何を思っているのか?
「早くヤれって言っんだろ、待たせるなよ俺様を!」
「貴様は私にとってもはや無害だ。殺す価値もない」
「ククククク……俺に慈悲なんてかけやがって、後で後悔するぞ」
 紫苑は何も言わず麗慈に背を向けて歩き出した。
 磔にされている翔子の前に立った紫苑は、彼女を解放しようと腕に巻かれている縄に手をかけようとしたその時だった。
「……だ、誰あなた!? えっ、ここ……?」
「名は紫苑だ、君を助けに来た」
 仮面の奥で聞こえる声には優しさが含まれていた。
「私、どうして……、あそこに倒れてるの麗慈くん!? あれ血なのもしかして!?」
 混乱する翔子は全く事情が呑み込めていなかった。それについて言葉少なげに紫苑が説明をする。
「あいつが君を攫えと撫子に命じた。それ以上は何も聞くな……君はこれからもと生活に戻るのだから、私たちのことには関わらない方がいい」
 紫苑は片方の手を解放して、もう片方の手に巻かれた縄を外そうとしていた時、翔子がこんなことを口にした。
「愁斗くんでしょ、愁斗くんだよねその声?」
「…………」
 無言のまま紫苑の動きが止まった。
「愁斗くんに決まってる、私が愁斗くんと他人の声を聞き間違えるなんてないもん!」
「…………」
 紫苑はやはり何も言わなかった。
「その仮面取って顔見せてよ!」
 何も答えず紫苑が再び縄を解こうとした時、後ろから殺気を感じ、それと同時に翔子が叫んでいた。
「避けて!」
 反射的に紫苑は避けた。だが、それが不幸を呼び、紫苑は悲劇を目の当たりにして動けなくなってしまった。
 翔子の腹が剣で突き刺され、剣の切っ先は十字の磔台を貫いていた。
 剣を持った男は人間ではなかった。タキシードで正装し、背中には巨大な蝙蝠の翼が生えていた。
 剣を翔子の腹から抜いた男は笑った。その唇の間からは異常に尖った犬歯は妖しく覗いていた。
「申し訳ありません、後ろにいたレディーを刺してしまった」
「……貴様」
 全身を打ち振るえさせ、紫苑は憎しみのこもった声でそう呟いた。
「貴様よくも……」
「だから謝ったじゃありませんか。それにレディーひとりを刺されたくらいでムキにならないでください。私はあなたに大切な研究施設を壊されたのですから、それに比べれば他愛もないことですよ」
「他愛ないだと……万死に値する、死して罪を償うがいい!」
 凄まじいスピードで妖糸が放たれた。が、しかし、妖糸は剣に糸も簡単に断ち切られてしまった。
「こんな弱い相手に私の研究施設が壊されたとは、ああ嘆かわしい」
「まだだ、貴様には地獄の苦しみを与えて殺さねば気が済まん」
「ほざくだけほざきなさい、悠久なる時を生きる高貴な貴族である私に殺され前に」