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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(1)夢見る都

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「はははっ……神はいないか……ならば悪魔に魂を売ろうではないか!」
 辺りが急に暗くなり、外では雷鳴が轟いた。
 フロドはアリアの亡骸を床に丁重に寝かせ、大きく手を広げた。
 狂気の形相をするフロドは何かに取り憑かれたように、ぶつぶつと小声で何かを言いはじめた。
「……アズ……我は時の……契約……者……悠久……を経て……禁じられた契約……署名…開か……魔……扉!」
 呪文を唱え終わると同時に雷鳴が再び轟いた。
 床に横たわるアリアの顔と自分の顔を重ね合わせ、ゆっくりと顔を離したフロドはアリアを抱きかかえた。
 ゆっくりと目を開けるアリア。だが、その瞳は虚ろだった。
「ふろ……ど……サマ」
 無表情なままアリアはぎこちなくそう言った。
「そうだ、私はフロドだ。貴女は私によって永久を与えられた」
 アリアは何の反応も示さず、宙を虚ろな目をして見ている。いや、宙に顔を向けているだけだ。今の彼女には感情が全く感じられない。
「アリア、貴女は夢の中で私と生きるのだ。……永遠に一緒にいよう、アリア」
 フロドはアリアを地面に立たせ、彼女の手を取りワルツを踊りはじめた。
 ぎこちない人形のように踊らされるアリア。無表情なその瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。
 無表情なアリアを見て笑いかけるフロド。彼の瞳には以前のアリアが映っている。
 薔薇の聖堂で踊り続ける二人の男女――。
 ワルツを踊る二人は、覚めることのない夢を見る。――ここは二人の夢見る都。

 静寂がホールを包み込んだ。――拍手が全くないのだ。
 しばらくして誰かが拍手をはじめると、それに合わせて他の者も拍手をはじめ、ホールは拍手喝采となった。
 舞台の幕が開かれ、舞台に並ぶ役者たちが頭を下げて、再び幕が下ろされる。余計な挨拶はしなかった。演技を見てもらえればそれが全てなのだ。
 ホールの電気が点けられ、席を立った客たちが帰って行く。その音を聞きながら舞台裏では部員たちが歓喜の声をあげていた。
「爆裂サイコー! 最後の最後で最高の舞台ににゃったねぇ」
 撫子は翔子の両手を取りながらぴゅんぴょん飛び跳ねている。
 隼人が音響室から急いで舞台裏に走って来た。
「みなさんお疲れさまでした。本当にすばらしい演技だったと思います。特に愁斗くんと麗慈くんのアドリブには驚かせられましたね」
 アドリブとはラストでフロドとメサイが対決シーンのことだ。あそこはほとんど二人のアドリブだった。
 二人がアドリブをはじめて一番驚いて焦ったのは翔子だった。
「本当にあのシーンはよかったよ。でも、麗慈くんが剣を投げ捨てた時はどうしようと思っちゃった。どこで私が飛び出したらいいのか冷や冷やしちゃったよ」
 麗慈は笑いながら手を頭の後ろにやった。
「ごめんごめん、気づいたら俺、いつの間に剣を捨てててさ。愁斗が俺に合わせてくれてなきゃ舞台が滅茶苦茶になるとこだったよな」
 あのシーンは二人の息がぴったりで演技とは思えないほどのできだった。
 ぴょんぴょん跳ねながら撫子は麗慈の前まで行った。
「あのシーンってさぁ、二人で打ち合わせとかしてたのぉ?」
「いや、全部本当にアドリブだよ」
 全部本当にアドリブだった? その言葉に突っかかる麻那。
「あの光る筋は何なの? 二人の間で飛び交ってた光る筋のことよ、あれもアドリブだったって言うの?」
 麗慈は人差し指を唇に当てて言った。
「あれは俺と愁斗との間の企業秘密です」
 完全にはぐらかされてしまった。あのシーンを見ていた全ての人が思っていた。その光の筋は何なのだろうかと?
 辺りを見回す翔子。彼女はある人を探していた。
「あの、愁斗くんが見当たらないんですけど?」
 一同ははっとした顔をした。舞台が終わったばかりで興奮していて、愁斗がいないことに気づいていなかったのだ。そんな中でひとりだけは愁斗がいないことに最初から気がついていた。
「愁斗なら怪我が悪化したからって言って、さっさと楽屋に行ったわよ」
 愁斗は舞台の幕が下りてすぐに楽屋に向かおうとした。その途中で麻那に会って、そのことを告げて楽屋に向かって行ったのだった。
 そして、いつものように隼人が手を叩いた。
「はい、ではみなさんお疲れ様でした。後の時間は星稜祭を楽しんで来てください。それから、星稜祭が終わった後に楽屋で打ち上げをしますから、他に用がない人は楽屋に集合してくださいね」
 女子三人組が舞台裏を出て行き、麗慈もすぐに出て行ってしまった。
 翔子は急に撫子に腕を引っ張られて無理やり走らされた。
「な、何するのいきなり!?」
「早く衣装着替えて楽しい星稜祭を満喫しよー、お〜!」
 拳を上げて自分の意気込みを現す撫子を見て、翔子はため息をつく。

「もう、そんなに急がなくても時間は十分あるから」
「今日は最終日にゃんだから、ばば〜んとエンジョイしにゃきゃ」
「昨日も私を連れまわしたのに、今日も連れまわす気?」
 撫子は女子の更衣室に割り当てられ楽屋のドアを開けながら答えた。
「アタシと一緒じゃイヤイヤにゃのぉ?」
「そうじゃないけど」
 楽屋では麻衣子と沙織が着替えをしており、役を演じてない久美がその二人の着替えに付き合っていた。
 翔子は畳んであった自分の服を取り、着替えをはじめた。横では撫子も着替えをはじめている。
「翔子さあ、さっきの『そうじゃないけど』ってどういう意味? もしかして!?」
 撫子が声をあげるので、翔子はブラウスのボタンに手を掛けながら、動きを止めて相手の顔を見てしまった。
「もしかして何よ」
「愁斗クンと星稜祭ツアー御一行様ラブラブデートするつもり?」
「別にそんなこと考えてない!」
 頬を膨らませて顔を赤くした翔子は中断していた着替えを再びはじめた。
 二人の会話を聞いていた沙織が大きな声を出した。
「わぁ、撫子センパイ言いこといいますねぇ〜。沙織、愁斗センパイのことデートに誘ってみようかなぁ」
 この発言をわざと聞き流しているフリをして、着替えをしている翔子のわき腹に、撫子が肘を押し付けてグリグリする。
「いいにょかにゃ〜ん、沙織ちゃんあんにゃこと言ってますぜ親分」
「何のこと? 誰が愁斗くんをデートに誘おうと個人の自由でしょ」
 翔子の発言を聞いて、撫子のひとり芝居がはじまった。
「じゃあ、アタシも愁斗クンのことデートに誘っちゃお。そんで、公演の後はテンション上がっちゃってるから、デートの最後にはあ〜んなことやこ〜んな展開が待ってて、きゃあ愁斗クン何するの!? がはは、いいじゃねえか、きゃあ止めて愁斗クぅん、ああ〜んってなことがあるかもよ」
 少し調子に乗り過ぎた撫子を翔子が睨んだ。
「ダメ、愁斗くんで変な想像しないで!」
「じゃあ、デートの申し込みしたらぁ?」
 意地悪く言う撫子に対して、翔子は下を向いた。
「したくないもん」
 着替えの終わった沙織が翔子の覗き込むように立った。
「翔子センパイがしないなら、沙織が先に愁斗センパイに申し込みして来ま〜す」
 走ろうとした沙織の背中の服を久美が引っ張った。
「あんたは今から私たちと高等部吹奏楽部の演奏聴きに行くんでしょうが。まさか、私と麻衣子との約束破って私利私欲に走る気じゃないでしょうね?」