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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(1)夢見る都

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 ティータは一思いに自らの喉元を短剣で刺した。
 崩れ落ちるティータ。床が紅く染まっていった。
 
 友人の裏切りにあったフロドは失意の底から這い上がれぬまま、婚姻式当日に薔薇の聖堂に向かった。
 薔薇の聖堂にいたのは、アリアとメサイだけだった。他の者はどうしたのか、婚姻式はどうしたのか?
「待っていたぞフロド!」
「婚姻式はどうしたのだ、ここで行われるはずではなかったのか!?」
「婚姻式は明日に延期だ。今日ここで貴様との決着をつけるためにな!」
「何っ!?」
 今日ここで婚姻式が行われるという情報はティータから聞いたものだった。そう、全てはメサイの罠だったのだ。
「またしても私はティータに謀られただな」
 ティータという名を聞いてメサイの口元が歪んだ。
「貴様は知らぬかもしれんが、あのティータという女は昨日自害したぞ」
「何だと!? ティータが、そんなはずがない! ティータが死ぬなど!」
 信じられぬことだった。まさか、あのティータが自害しようとは。フロドの心はより失意の底に沈んでしまった。
「死んだ友人を想うのか……貴様を裏切った友人を!」
「彼女には彼女の生き方があったのだ。私を刺したとしても、彼女は永遠に私の友人だった」
「刺されても友人だと? 戯言をぬかすな、あの女にそのような価値はない」
 はっきりと言い切ったメサイをフロドは鋭い目つきで睨みつけた。
「ティータを愚弄するつもりか!」
「あの女には愚弄する価値もない」
「貴様!」
 今にもメサイに飛び掛かりそうなフロドを悲痛な叫び声が止める
「お止めになってフロド様、メサイ様もですわ。もう止してくださいませ」
 メサイはアリアの腕を引き、自分の後ろへ強引に移動させた。
「これは私とあ奴の問題だ」
「いいえ、違いますわ。わたくしの問題でもあります」
 前へ出ようとするアリアを再び自分の後ろに押し込めるメサイ。アリアには運命を選ぶ権利はないのだ。
「これは私とあ奴の問題だと言うているだろ、おまえは下がっていろ!」
「わたくしは人形ではないのですよ、私には魂があるのです!」
「うるさい黙っていろ!」
「……なっ!?」
 アリアの身体が動かない。上半身は動くのに、足だけが上がらないのだ。
「私とあ奴の話が付くまで、おまえの足は石と化した。そこで全てを見届けておれ」
 メサイは何かを考えながらフロドの前を行ったり来たりした。
「私とフロド……どう決着を付けるべきか」
「魔導力を競おうではないか!」
「いや、アリアに近くで決着を見届けてもらいたい。魔導で私らが戦えばアリアに危険が及ぶだろう。それにこの聖堂で明日婚姻式をするのでな、建物を壊されては困る」
「では、こうしよう」
 どこからか輝く剣を取り出したフロド。彼は剣による決闘を申し込んだ。
「昔ながらの剣による決闘を申し込む。アカデミーでの貴公の魔導剣士として腕前は聞いていた。いつか手合わせを願いたかったが、アカデミーでは叶わなかった。そこで、ここでお手合わせ願いたい」
「面白い」
 メサイの手にも輝く剣が握られた。
「実に面白い、私も貴様の名は聞いていた。魔導の腕も剣の腕も随一だと言われていたのを覚えている」
 二人の男は愛するものために剣を取った。その二人の男性を見つめるアリア。
「お止めになって、わたくしはお二人が争うのを見たくありません」
 アリアの言葉は二人に届くことはなかった。
 剣を構えた二人は互いを見据え、目を離すことなくある程度の間合いを取りながら攻撃の機会を窺っている。
 先に仕掛けたのはメサイだった。
「うおりゃーっ!」
 地面を蹴り上げ切っ先を天高く振り上げるメサイ。そして、剣は光を放ちながら大きく振り下げられた。
 相手の剣戟を受け止め、フロドは相手を睨みつけた。
 交わる剣と剣を挟み、互いの闘志が燃え上がる。
 素早い動きでメサイの足が振り上げられた。不意を突かれたフロドは相手の蹴りを受け止めることができず、腹に蹴りを受けて床に転がった。
 この機会をメサイは見逃さない。
 剣は床を激しく叩き砕き破片がフロドの顔にかかる。振り下ろされた剣を辛うじて避けていなければフロドは即死していたに違いない。
 狂喜の形相で迫り来るメサイの剣を、フロドは己の剣を下から掬い上げるようにして弾いた。メサイの剣が宙を回転しながら舞う。
 床に落ちる剣。フロドは一刀を放つべくメサイに襲い掛かる。
 だが、メサイの手が煌きを放った瞬間。メサイの剣が糸で引っ張られたように手元に戻ったではないか!?
 フロドの剣戟を不敵な笑みで受けるメサイ。彼は魔導を使ったのだ。
「使わぬとは言っていない」
「なるほど、ならば私はアリアに危害が及ばぬよう、それだけを考えて戦おう」
 二人は同時に相手の剣を突き放し後ろに飛び退いて間合いを取った。
 メサイが風を巻きながら走る。そして、剣を横に振る。
 しゃがんだフロドの頭上を剣が掠め、フロドはそのまま回し蹴りを放った。
 足を取られて転ぶかと思われたメサイだが、彼はバク宙を決めつつフロドと間合いを取った。
 メサイは剣の切っ先をフロドの顔に向けて、声高らかに叫んだ。
「貴様は生まれながらのエリートだ。私は貴様の幻影ばかりを追って生きて来た。貴様は優秀で私は出来損ない――だから私は貴様に嫉妬した!」
「私は天才ではない。私は家族を崩壊させた者どもを怨んだ――怨念が私の力」
「怨念か――では、私は憎悪の力だ」
 なんと!? メサイは剣を捨てた。
「やはり、魔導で戦おう、古の血を引きし魔導士よ!」
「望むところだ」
 フロドもまた剣を捨てた。
 二人の間に煌きが放たれ床に落ちた。二人が手を動かすたびに一筋の閃光が走り、そして、消える。
 フロドがメサイとの距離を縮めて手を横に振るった。メサイの真横を光の筋が通り抜けた。
 次の瞬間、メサイの姿が一瞬にしてフロドの視界から消えた。
 殺気を感じた時には遅かった。
 フロドは背中を激しく蹴られ、地面に手を付きながら倒れてしまった。
 床に落ちていた剣を拾い上げたメサイはフロドに止めを刺すべく、剣を突き刺そうとした。だが、その時だった。
「止めてっ!」
 床に倒れるフロドに覆い被さるようにアリアが!
 剣はアリアの身体を通り抜け、そして、引き戻された。
「な、なぜだ……なぜこ奴を庇った……!?」
 メサイの手から剣が滑り落ちた。
 起き上がりつつフロドはメサイの落とした剣を拾い、大きく剣を振り上げた。
「なぜだーっ!」
 叫びをあげたメサイは、ゆっくりと背中から床に倒れて動かなくなった。――フロドが勝利を治めたのだ。だが、アリアは……。
 フロドは床に倒れたアリアを抱き起こし、涙を流した
「どうして……どうしてだ……」
「フロド様……やはりわたくしと貴方様は……引き裂かれる運命なのですね」
 アリアの声はか細く息も荒い。もう、助からない。
「何を言うておるのだ。私とアリアは永遠に一緒だ」
「貴方の言うとおり……神はいませんでした……ありがとうフロド……」
 アリアの身体から力が抜け、フロドは叫び声をあげた。
「アリアーっ!」
 愛するひとの亡骸を抱きかかえ、フロドは泣いた。これまでで最も激しく泣いた。