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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(1)夢見る都

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 翔子は背筋がゾクゾクとして、勢いよく立ち上がった。
「私帰るね」
 帰ろうとする翔子を見て撫子も立ち上がり、熱い眼差しで引き止めた。
「えぇ〜っ、せっかく来たのに帰るのぉ〜、夜はまだまだ長いのにぃ」
「絶対帰る」
「ジョーダンだよぉ。翔を襲いたいって気持ちはあるにはあるけど、自制心で抑えてるから、ね?」
「襲いたいって気持ちがある時点でダメ。もう、今日から友達止める!」
「ごめ〜ん、許してよぉ。翔子は引っ越して来て一番初めにできた友達にゃんだから、翔子に嫌われたら、これからの人生、ぶっ落ちるよ。アタシは翔子のこと親友だと思ってるんだよ、そんにゃアタシを見捨てるの?」
 段ボール箱の中に入れられて、電信柱の影に捨てた猫みたいな表情をした撫子に、翔子は根負けした。
「……変な素振り見せたら絶交だからね」
「うん!」
 翔子はゆっくりと床に再び座った。
「絶対変なことしないでよ」
「ごめん、全部ジョーダンだから、怒らにゃいでね。本当に翔子に嫌われると、泣きそうににゃっちゃうから」
 そう言う撫子はすでに泣いていた。
 泣き出してしまった撫子を見て、翔子はひどく慌てる。
「泣かないでよ、絶交しないから」
「爆うれしぃ〜! そんにゃ翔子が爆裂大好きだよぉ」
 泣いていたと思ったのに、次の瞬間には撫子は笑顔だった。それを見て翔子は疑いの眼差しで撫子を見る。
「嘘泣きだったの?」
「ウソ泣きじゃにゃいよぉ〜。本当に涙が出たの、でもすぐに爆裂元気ににゃったんだよぉ」
「……どっちでもいいか」
「あ、信じてないの、ひっど〜い」
「信じる信じる」
 翔子態度に撫子は頬を膨らませた。もし、撫子にしっぽがあったならば、きっと立っているに違いない。
「ふんふんふ〜んだ」
「怒らないでよ」
「怒ってにゃんか、にゃいにょ〜ん」
「じゃあ、今度イチゴミルクおごってあげるから」
「えっ!? イチゴミルクおごってくれるの? 爆うれしいぃ〜」
「撫子って簡単ね」
「そんなことにゃいよ、撫子の攻略はA難度にゃんだから」
 『難度って何?』と翔子は聞こうとしたのだが、そんなことよりも重要なことを思い出した。
「それよりも、ここに私が来た理由。私は撫子にいろんな相談があって来たの」
「でも、もう烈元気そうだから、相談にゃんてぶっ飛んでいいんじゃにゃいのぉ?」
「ダメ、撫子の家に押しかけたからには相談聞いてもらう」
 話が途中でだいぶ逸れてしまったが、翔子は再びに麗慈のことから話しはじめた。
「さっき、麗慈くんにキスされそうになったって言ったでしょ? 私、麗慈くんより愁斗くんが好きだって気づいたから、麗慈くんに言い寄られて来られても困るの」
「ちゃんと、愁斗クンが好きだから変なマネしにゃいでって言ったの?」
「愁斗くんの方が好きって言ったのに、『絶対自分の方を振り向かせて見せるから』って言ったんだよ麗慈くん」
「麗慈クンって自信アリアリの過剰クンにゃんだ。じゃあ、アタシから麗慈クンにガツンと言ってあげるよ」
「本当にいいの?」
「翔子とアタシの仲だもん、爆裂いいに決まってるじゃん」
 胸を堂々と張って言い切った撫子であるが、翔子には心配事があった。その心配事が自分でもっとガツンと麗慈に言えない理由でもある。
「でも、ガツンと言ってケンカとかにならないよね……もし、撫子と麗慈くんがそれで仲悪くなったら、私のせいだし……」
「その時は笑って相手を屠ればいいよん」
「屠るって……麻那先輩みたいな言い方……!?」
 翔子はあることに気がついて騒ぎ出だした。
「ダメ、ケンカはダメ。私のせいとか、そういうことじゃくてケンカはダメなの!」
「どうして、害虫駆除のどこが悪いのぉ?」
「麻那先輩最近ピリピシしてて、私とケンカまでしちゃったし、このまま部の雰囲気が悪くなると公演ができなくなっちゃうよ。撫子がいなくなってから練習最悪だったんだから……」
 最悪だった要因に自分が大きく関わっていることを思い、翔子は胸を締め付けられる思いだった。
「翔子言うとおりだよね。公演できなくにゃったら嫌だもんね。明日までにアタシ衣装仕上げて部活出るよ」
「……本当? 撫子がいてくれると場の空気が少しはよくなると思う」
「じゃあ、そういうことで、翔子ちゃんさらばじゃ〜!」
「帰れってこと?」
「そうだよ、これからアタシは衣装作りで、美容と健康に悪い徹夜だもん」
 翔子はうなずいた。相談はあんまりできなかった気がするけれど、少し気持ちが楽になったような気がする。
「じゃあ、よろしくね撫子」
「おうよ、任せとけ!」
 翔子は撫子に玄関まで見送られ、自宅への岐路に着いた。
 黄昏時はすでに過ぎ去り、冷たい青が世界を包み込み、日はすっかり暮れてしまっていた。

 蒼白い月明かりの下、冷たい墓地に耳障りでけたたましい警報音が鳴り響く――。
 十字の墓標の下から褐色の枯れた手が突き出した。それも幾本もの手が唸りや叫びをあげながら、地の底から伸びて来る。
 ホラー映画のワンシーンのような光景を前に、紫苑は仮面の奥で笑った。
「死人の研究を墓地でやっていたとは、ブラックジョークのつもりか……」
 地の底から這い出て来たのはゾンビであった。そのため墓地には鼻を覆いたくなるような生臭い腐臭が漂う。
 身体が腐食し、腕がない者や眼のない者などがいる。放って置けばいつかは朽ち果てるだろうが、今はそうもいかない。
 紫苑の手が動く。放たれる妖糸。
 ゾンビたちの身体の部位が切り飛ばされる。だが、ゾンビの動きは止まることがなく、紫苑になおも襲い掛かろうとする。
「頭を飛ばされても、魂で動いているのか……、なるほどゾンビを相手にするのははじめてだが、いい勉強になった」
 魂を楔に繋がれ、安らかなる眠りにつくことを許される亡者たち。哀れ悲しき死人を前にしても、紫苑の声に慈悲は含まれていない。
「安らかとまでは行かぬが、私が深き眠りに就かせてあげよう」
 何十匹といるゾンビたちの間を疾風のように走り抜け、月光を浴びた紫苑の妖糸が煌きを放つ。
 細切れにされていくゾンビたち。血は出ないが、腐敗臭が酷くなった。

 紫苑の足元で蠢く切断されたゾンビの腕。腕だけになっても動くそれは執念か怨念か、それとも……。
 骨を砕く音が静かな墓地に木霊した。紫苑がその方向に目を向けると、そこには人影がしゃがみ込み、地面に崩れたゾンビを貪り喰っているのが見えた。
「屍食鬼――グールか、いや、あれはグーラか」
 墓地などで死人の肉を貪る怪物をグールといい、特に女の姿をしているものに関してはグーラと呼ぶ。
 ゾンビの腕を頬張りながらグーラは立ち上がった。そして、口の中に入れていた腐肉を吐き出す。
「やっぱり、ゾンビの肉は喰えたもんじゃないわね。鮮度のいい肉が喰いたいわ」
 グーラは妖艶な笑みを紫苑に向けた。
「私の肉は喰っても不味いぞ」
「あら、それはどうかしら。どこの誰かは存じないけど、ゾンビ兵をあっさり倒す手際はとても頼もしかったわよ。さぞかしお肉も美味しいと思うわ」
 グーラは妖艶な顔をしながら舌なめずりをした。そして、イッた。