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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑(1)夢見る都

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 小さな公園があり、しばらくすると酒屋の近くにある大きなマンションが翔子の視界に入って来た。やっぱりここなんだと改めて翔子は実感した。
 一年ほど前にできたマンション。この場所は知っていたが、撫子の家がここだったと翔子は今日はじめて知った。
 マンション内に入った翔子はエレベーターで五階に上った。そして、505という数字を頭の中で反復させながら、505号室の前まで来た。
 表札には撫子の苗字である?涼宮?と書かれている。
 表札に間違いないことを確認した翔子はインターフォン押した。すると、ややあったインターフォンから声が聞こえた。
《どにゃたですかぁ?》
「撫子? 私、翔子」
《本当に来たんだ翔子》
「本当に来たってどういうこと? それよりも中入れてよ」
《ちょっと待ってて》
 ガチャと鍵の開く音がして、少し開いたドアの隙間から撫子の顔が覗いた。だが、チェーンロックが掛かっている。
「にゃば〜ん! 翔子」
 明るい感じで撫子は翔子に挨拶するがチェーンロックは掛かったままだ。
「撫子……チェーンロック外してくれないかな?」
「にゃんで?」
「家の中に入れたくないの?」
「入りたいの?」
「当たり前でしょ」
「……にゃにがあっても人に口外しにゃいことが条件」
「……家の中に何かあるの?」
「いいから、とにかく約束してよぉ」
「約束します。入れてください」
「しかたにゃいなぁ〜」
 撫子はしぶしぶと言った感じでチェーンロックを外した。
 玄関を潜った翔子を歓迎しようと、撫子は片手を大きく部屋の中に向けて言った。
「じゃじゃ〜ん、撫子んち、爆初公開だよ〜ん!」
 しぶしぶ家の中に入れたわりには、先ほどと態度が豹変して明るい。
 玄関で靴を脱ごうとした翔子はあることに気がついた。靴が一足しか出されていないのだ。他の靴は全部下駄箱に入れてあるのだろうか。だとしたらとても几帳面な家族なのだろう。
 ダイニングに通された翔子はまた少し疑問を感じた。家具がほとんどなく、生活観があまりないのだ。置いてある家具といったら、こじんまりしたテーブルとテレビだけであとの家具がない。
「あのさ、翔子……聞いてもいいかな?」
「ダメ、ダメダメだよ、うちの家庭事情についてはあんまり聞かにゃいで。あと、トイレとお風呂とここ以外は入っちゃダメだからね」
「……そういう言い方されると、気になるんだけど。もしかしてなんだけど、ここに住んでるのって撫子だけ?」
「にゃ、にゃに言ってるのぉ!? あっははぁ〜、まっさか中学生に分際でマンションに一人暮らしにゃんて、爆裂ナイナイだよ」
「してるんだ。でも家族はどうしてるの?」
「だから、してな――」
 『してない』と言おうとしたのだが、翔子が自分のことをじーっと見つめているので、撫子はため息をつきながら白状した。
「星稜中学に転校して来てから、ずっと一人暮らししてる」
「それって大問題なんじゃないの?」
「お願いだから、これ以上はアタシんちの家庭事情に触れにゃいで、お願い」
 すぐにでも涙が零れ落ちそうな瞳で、撫子は翔子を見つめた。
 中学生がマンションで一人暮らししているなんてとんでもない話だが、撫子が触れられたくないようなので翔子はもう何も聞かなかった。
「ごめんね、もう聞かないから」
「翔子物分り爆いいね。じゃ、飲み物持って来るけど、にゃに飲む?」
 一気に撫子は元気を回復した。撫子は気持ちの切り替えがとても早いのだ。いや、もしかしたら気持ちなど、最初から変わっていないのかもしれない。
「何があるの?」
「ええっと、牛乳とミルクとホットミルク、それともイチゴミルクにする? あっ、バナナミルクもあるよ」
「全部牛乳じゃない。他の飲み物はないの?」
「アタシ飲み物牛乳しか飲まにゃいんだよねぇ」
 そう言えば翔子は撫子が乳製品以外の飲み物を飲んでいるのを見たことがなかった。いつも学校でもイチゴミルクを飲んでいるのしか見たことがない。
「牛乳ばっかり飲んでるのに、撫子ってちっちゃいよね」
「ちっちゃいって言うにゃ」
「ちっちゃくても可愛いんだから、怒らない怒らない。じゃあ、私はバナナミルク」
「うんじゃ、ちょっくら待ってて」
 しなやかな脚を弾ませ、風のよう台所に走って行った撫子は、風のようにグラスを二つ持って戻って来た。
「お待ちぃ〜、バナナミルク一丁」
「ありがと」
「適当にゃところ座っちゃって」
「うん」
 バナナミルクを飲みながら翔子は床に座った。それに合わせて撫子も床に座る。
「ところで翔子はにゃんでうちに来たの? さっき電話越しに泣いてたけど……ま、まさか! 変にゃ男教師に襲われて、体育館裏に無理やり連れられて…… きゃ〜、みたいにゃ感じ?」
「う〜ん、ほんの少しだけ近いかも」
「じゃあ、センパイたちに校舎裏に連れて来られて、きゃあ?」
「あのね……」
 翔子は言葉に詰まり、ゆっくりと深呼吸をして改めて言った。
「あのね、麗慈くんに無理やりキスされそうになって、逃げて、そのことを麻那先輩に相談して、その後みんなの前でそのことを麻那先輩がバラしたの」
「……掻い摘んで話し過ぎでわかんにゃいよぉ」
「だから、麗慈くんが私にキスしようとしたことを麻那先輩がみんなにバラしたの!」
「大したことにゃいじゃん」
 あっさりと撫子に言われてしまって翔子はショックだった。撫子に相談に来たのに、そんな言い方されるなんて夢にも思っていなかったのだ。
 適当にあしらわれたような感じのした翔子は頭に血が上ってしまった。
「そんな言い方ないでしょ! 私には大したことなんだから」
「翔子カリカリし過ぎだよぉ。バナナミルク飲んでカルシウム摂って。イライラにはカルシウムがいいんだって」
 撫子に言われた翔子は当て付けでバナナミルクを一気に飲み干して、顔を膨らませてムスッとした。
 怒って何も言わない翔子に撫子は呆れてしまった。
「翔子、子供みた〜い」
「まだ子供だもん」
「そうやってほっぺた膨らませるところが子供だね。それにキスされそうににゃったことぐらい、誰に知られてもいいと思うけどにゃぁ」
「だって、恥ずかしいし、みんなにどう思われるか心配で……」
「アタシは別にキスにゃんて恥ずかしくにゃいから誰とでもできるよ。でも、愁斗クンとか麗慈クンみたいにゃ人だと、爆いいかにゃ」
「だ、誰とでもできるって……撫子、男の人とキスしたことあるの!?」
「わぁ〜、烈うっそぉ〜、翔子キスの経験にゃいんだぁ〜、きゃはきゃはだね」
「あ、あるわけないでしょ!?」
 翔子怒りはどこかに吹き飛び、今度は別のことで顔が真っ赤になってしまった。
「アタシはにゃん度もあるよ〜ん。でも、女の子とはまだ一度もにゃいかにゃ」
「女の子とないのは普通でしょ。まさか、女の子ともしたいの?」
「翔子とだったらキスしたいにゃぁ〜、にゃんていつも思ってるよ」
 ニッコリと言う撫子だが、翔子には衝撃的だった。自分が撫子に狙われていたなんて考えたくもない。
「私はお断り」
「女の子同士のキスならぜんぜん平気って子よくいるけどにゃぁ〜」
「私はノーマルなの」
「女の子同士でキスする子たちもノーマルだよ。親友同士のスキンシップだよぉ」