カナダの自然に魅せられて~リスを探して10日間(2)
私たちはマンションを後にして、グランビルアイランドに向かった。
……いや、向かったはずだった。
スカイトレインの駅に行くのかと思えば、駅を無視して美月はどんどん歩いていく。
空き地のようなところも通って、寂れたところに向かっていく。
どこへ行くんだろう…。
しばらく歩くと、海に浮かぶホントに小さな波止場があり、桟橋がかかっていた。
切符売り場もないし、時刻表もないし、ここは何?と思った。
美月は一人で、桟橋を降りて波止場に立っていた。
私は、カモメを追いかけた。バンクーバーのカモメは近づいても逃げずに、可愛い顔を見せポーズをとってくれる。被写体としては申し分ない。
程なくして、1隻の小さなボートが近づいてきた。
「COOPさん」のマークのような虹色の縦のラインの模様を描いたボートで、その胴体には aquabus と大きく書かれていた。
波止場に立っている美月を見つけて近づいて来てくれたのだ。
立っているのが、「乗りますよ」という合図だったのだろう。
そのボートには運転手さんが一人だけで、お客は誰も乗っていなかった。
ボートに乗り込んで、運賃を払い「グランビルアイランドへ」と目的地を言う。
ちょうど海のタクシーのようだ。
他にも同じようなボートが何隻か運河のようなバンクーバーの入江を往来していた。
海から眺めるバンクーバーの街並みは格別だ。
林立する高層のビル群。
そのほとんどが新しいビルで、ガラス張りなのだ。
だから町全体が明るく軽やかに見える。
有名な建築家がデザインしたという歪んだ様な変わったビルも見えた。
ダウンタウンの向こう岸には、水面ギリギリに家が建っていた。
この入江は波立ったりしないのだろうか、水害はないのだろうか…。湖のように穏やかな入江だった。
海辺のすぐそばで育った私には、台風のときの海の怖さを知っている。だからこの水面ギリギリに建つ家が不思議でならなかった。
丹後の伊根の船宿や久美浜の湾の水辺に建ってる家を見たときと同じ感じがした。
しかし、どの家も窓辺や入り口には色とりどりの花が咲いたプランターをつるしてあった。バンクーバーの人々は花を忘れない。心に余裕があるんだろうな。
しばらく進むとマストが林立しているヨットハーバーが見えてきた。一体何艇停まっているんだろうとても数えられない。
右に左に、バンクーバーの街を眺めていると、暫らくして賑やかな音楽や人々の声が聞こえてきた。
着いたのだ。
およそ、港とは思えない船着場だった。頑丈な突堤があって、そこに横付けされるものと思っていたのに。細い板を船に渡しただけで、ゆらゆら揺れる上をこわごわ歩いて陸地に上がったのだった。
そこには、ヨットやモーターボート、少し大きめの客船、そして私たちと同じアクアバスなど、様々な船が船着場に横付けされていた。
作品名:カナダの自然に魅せられて~リスを探して10日間(2) 作家名:ねむり姫