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表と裏の狭間には 十四話―様々な変革―

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ゆりに誘われて何がなんだかよく分からないまま引越して来たら、そこに住んでいた彼女が実は昔別れた俺の親友で。
しかも、引越して早々『お約束』な場面に出くわして。
ワケが分からん。
まぁ、レンに呼ばれてることだし、さっさとあがるとするか。

今に行くと、そこではレンが一人で座って、深夜のニュースを見ていた。
「お、来たね。」
「わざわざ呼び出してどうした?」
「ん、今夜は誰もいないみたいだし、ちょっとこの家の『隠し設備』を紹介してやろうと思ってね。こっちだよ。」
と言って、レンは入り口からみて右端の壁に歩み寄る。
「ねぇ、紫苑?この部屋、外から見て狭いと思わない?」
「………言われてみれば。」
廊下から見たときのドアから階段までの距離と、部屋の中のドアから右側の壁までの距離は、少々違うのだ。
不自然に、狭い。よく見ると。
レンは壁の一角を探っていると………、ある一点を指で突いた。
すると、壁の一部が回転し、取っ手になった。
なるほど。隠し扉か。
レンがそれを手前に引いて開く。すると、その奥から木の引き戸が現れた。
レンはそれを開けて中に入る。
「ほら、こっちだよ、紫苑。」
「なんなんだ?」
中に入る。
レンはまず隠し扉を閉めて、それから引き戸を閉める。
その後、部屋の電気を点けた。
ランプに照らされた隠し部屋は。
レトロな木の内装で。
これまたレトロな木のカウンターがあって。
レトロな木の椅子があって。
これまたレトロな木の棚がある。
つまりは。
バーだ。
「紫苑、そこに座ってくれ。」
レンに促されて、座る。
「レン、これは?」
「見ての通り、バーだ。」
「何で、高校生しか住んでない家にバーがあるんだ?」
「そりゃ、ボクたちが使うからよ。」
…………………。
まぁ、いいか。
俺は椅子に座り、レンはカウンターの中に入る。
レンは棚から一つのビンとジョッキを取り出すとビンを机の上に置く。
そして、カウンターの中から氷を取り出し、ジョッキに入れる。
その後、ビンから液体をなみなみとジョッキに注ぐ。
「それは?」
「酒だよ、酒。ボクが特別に配合した、えーと、なんて言うんだっけ……。まぁいいや。ほれ。飲みなよ。」
そのジョッキを、ぐいっと俺の方へ押し出す。
「飲めって……。」
前に一度シャンパンを飲んだが、結構苦かったぞ。
いや、苦いのとはちょっと違うが………。
「平気平気。ボクが甘めに味付けしてあるからさ。」
「そうか?なら………。」
って、問題はそこじゃない気がするが。
まぁ、もう一度飲んでるわけだし。
一度も二度も同じこと、か。
ジョッキを手に取り、少し口に含む。
確かにレンの言うとおり………甘い。
「お前、上手いな。結構美味しいぞ。」
「褒めてもらえて嬉しいよ。」
もう一つジョッキを取り出し、氷を入れて、そっちにも同じ酒を注ぐレン。
「ほれ、乾杯。」
「………ああ。乾杯。」
ジョッキ同士をカチンとぶつける。
俺もレンも、一口飲む。
喉を通り過ぎると同時に、クラリとした感覚が過ぎる。
「ククッ。この感覚、たまらないねぇ。」
「まぁ、悪くはないかもな。」
たまになら。
「そういえば、お前のその口調、ゆりたちは驚いてなかったな。」
「まぁね。家の中では、いつもこんな感じさ。」
「へぇー。それも相変わらずだな。」
喋りながらも、少しずつジョッキを傾ける。
飲み下す量が増えるにつれ、頭がクラクラする度合いも増してくる。
「おいおい、酔いつぶれないでくれよ?君が昏睡してしまったら、酒の入っているボクは理性を保てなくなるかもしれないからね。今日はゆりたちもここに来ないようだし、内から鍵をかけてしまえば誰も入って来れない。ちなみにこの場所の存在を秘匿するため、部屋は完全防音性だ。」
「お前、そこらへんは変わったな。」
「これでも思春期の乙女だぜ?当然だろ?」
あー………まぁ………。
言いたい事は分かるんだけどなぁー………。
「しかし、さっきはびっくりしたよ。」
「まだ引っ張るのか?その話題。」
「いい酒の肴だろ?」
「酒の肴としてはいいかも知れんが、趣味は悪いな。」
「クク、まぁそう言うな。ボクだって、脱衣場に入ったら男がいるなんて予想出来ないさ。」
「俺だってまさか入った先が女子更衣室だとは夢にも思わなかったさ。」
「そして君にまじまじと更衣を見つめられるとはねぇ。」
「だからそれはお前が会話を続行して俺を引き止めるからだろうが。叫んでくれれば飛び出したってのに。」
「いやー、まぁ、その必要はない気がしてねぇ。他の人ならともかく、君なら特に理性を吹き飛ばすようなこともないだろうしね。」
「当たり前だ。」
こいつの裸で理性が飛んでたまるか。
レンはジョッキの中身を飲み干すと、もう一杯注ぐ。
「ほれ。もっと飲みなよ。」
ついでに俺のジョッキにも注ぎやがった。
「お前、飲みすぎたらどうすんだよ。」
「心配しなくても明日は休みだ。遠慮せずに飲みたまえ。」
「そういう問題じゃないんだが………。」
こいつ、本気で俺を潰しにかかるつもりじゃないだろうな?
「まぁいいじゃないか。たまには羽目を外したって。」
「お前らは日常的に酒を飲んでるんだろ?」
俺は、未成年の飲酒にごちゃごちゃと文句をつける人間ではない。
多分、この家の人間全員がそのタイプなのだろう。
まぁ、煙草はどうかと思うけどな。
ふと、レンが立ち上がり、俺の隣に座る。
「心配しなくても、この一杯で今日は終わりだよ。ま、ゆっくり飲もうじゃないか。」
そう言って、また一口。
しばし、沈黙が続く。
この部屋が完全防音なのはマジらしく、外であれほど聞こえていた雨の音が全く聞こえない。
俺とレン、二人の呼吸音と、溶けた氷がガラスに当たる音。
それしか聞こえない。
しかし、この沈黙は悪くない。
この心地いい沈黙が、いつまでも続いて欲しい。
なんて思っていたら、いきなり膝に何かが乗せられた。
ぽとん、と。
重く温かいものが。
「………何してんだお前。」
「いや、昔を懐かしんでいるんだよ。ほら、前はこうやって昼寝をしたこともあったなぁってね。」
「確かにそんなこともあったが、この歳になったらポジション逆じゃないか?」
「まぁいいじゃないか。昔みたいに甘やかしておくれよ。」
「確か俺も眠かったのにお前が俺の膝で寝込んだせいで眠れなかったんだよなぁ?」
「でも何だかんだ言いつつも甘やかしてくれたよね。」
「まぁな………。」
そりゃぁねぇ。
甘えられたら、無下には出来んだろ。
それがこいつや雫だったらの話だが。
「ほらほら。ボクの頭を撫でてくれよ。」
「そんな態度の人間が人に甘えるとは思えないんだが。」
とか言いつつ、結局頭を撫でてやる俺がいたりして。
甘いなぁ。
我ながら甘すぎるだろ。
というかこいつがレンだと分かってから、一気に甘くなった気がするぞ俺。
こいつもこいつで、自分がレンだということが発覚してからは遠慮がなくなりやがったし。
鬱陶しいと思う一方で、好ましくも思ったりして。
レンは俺に頭を撫でられながら、満足そうに笑って目を閉じる。
「って寝るなよ。」
「寝はしないよ。ただ、この心地いい感覚に身を委ねるだけさ。」