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表と裏の狭間には 十四話―様々な変革―

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「心地よい感覚に身を委ねたら眠ってしまうと思うんだが。」
「まぁいいじゃないか。ボクが寝たらボーナスタイムだぜ?」
「いい加減鬱陶しくなりつつあるからな?何事もほどほどにしろ。」
「それも一理あるね。」
よっと、なんて言いつつ身を起こすレン。
「しかし、いくら誘っても来ないなんて、君はどこまで奥手なんだい?」
「そういう問題じゃないんだがな。気が乗らない。気分じゃない。」
これもちょっと違うか。
なんというか、まあ。
興味がない。か。
「興味がない、といったところだろう。」
「やれやれ。完全に見透かされてるな。」
「その通り。君とボクの仲だ。分からない事は何もない。」
「そうだな。」
そう答えながらジョッキに残っていた酒を一気に飲み干す。
これでお開きだ、という意思表示のつもりだったのだが。頭がクラッとした一瞬のうちに、俺は横に倒れていた。
いや、倒された、というべきか。
「『あれ』も久しぶりだったが、『これ』も久しぶりだろ?どうだい?五年越しのこの感触は。」
「お前、本当に一々変な言い方をするよな。普通だよ、普通。昔と何も変わらない。」
「…………その物言いはそれなりにショックを受けるね。ボクだって一応成長しているんだよ?」
「知るか、そんなもん。不意打ちでこの体勢に持ち込むところまで昔そのままだ。」
今俺が陥っているものは、膝枕だ。
レンの温かい両脚の上に、俺の頭がある。
そして、その頭をレンに撫でられている。
ついでにもう一つ。体が動かない。
「テメェ睡眠薬でも盛ったか。」
「ご明察。心配するな。殺すとかそういう目的じゃないし、寝たところを喰うつもりもない。ただね。君が拒否すると分かっていたから、こうさせてもらったんだよ。」
「何をする気だオイ。」
「今日はこのまま眠りたまえ。」
「断る。」
「そう言うと分かっていた、と言っただろう?だけどね、ボクにもそれなりに昔を懐かしむ気持ちはあるんだよ。だから、今日は昔みたいに、こうやってボクの膝の上で眠りに落ちたまえ。」
「あー………、お前なぁ、もうちょっと………手段てものが………。」
ヤバイ、意識が遠のいていくような感覚が。
本当に微量しか混ぜていなかったのだろう。緩やかな眠気がやってくる。
これだけなら眠らなかっただろうけど、酒に酔ったことも相まって、意識が飛びそうになる。
「口では拒否しても、どうせ本当に拒んでいるわけじゃないんだろ?心配しなくてもこんな椅子の上で寝かしたりはしないさ。ちゃんと居間に運んで座布団を敷いて寝かせてあげるからさ。」
「………お前はどうするんだよ。」
「相変わらず優しいね、君は。ボクも適当なところで寝るよ。だから心配せず、君はこのまま寝ろ。」
「……………はぁ、もういいや。」
そろそろ眠気が洒落にならなくなってきた。
「じゃ、おやすみ。」
その声を最後に眠りに落ちるのが分かった。

紫苑を居間に運び、座布団を敷いてその上に寝かせる。
頭はきちんと、ボクの膝の上に乗せておく。
やっぱり、本当の自分を曝け出せるというのはいい。
この家の人間以外の前でこんな変な喋り方をしていたら、絶対にごたごたになるからね。
ボクがレンだとばれる前は、紫苑にも変に思われたくなかったしね。
だから、今のこの状況は、ボクにとって最高の状況だ。
なんて、そんなのはどうでもいいことで。
やっと思い出してくれた。
雫ちゃんも、ボクを許してくれたし。
ボクの膝の上で眠る紫苑の頭を撫でる。
この寝顔を眺めるのは、実に気分いいな。
いや、この家に来てよかった。
この家にいたからこそ、ボクがレンだってことが発覚したわけだし。
ボクから自発的に告げるのは、到底無理だったろうし。
だから、ボクは今、幸せだ。
だけど、まあ。
ボクは紫苑の頭を撫でながら思い出す。
「去年、ボクを助けてくれたのが君だったとはねぇ。」
あれは、去年の六月だったかな?
家に帰ろうとしたら、いつの間にか回りで暴力団の衝突が始まって。
混乱していたところを助けてくれた二人組の人。
黒い服にガスマスクという激しく怪しい二人組だったけど。
あの二人のお陰で、ボクは無事に家に帰れたんだっけ。
クラスメイトから聞いたんだけど、驚いたな。
あの二人のうちの一人が、紫苑だったなんて。
まぁ、それを本人に問いただすような無粋なことはしないけど。
だから、多分、紫苑を本気で好きになったのは、それがきっかけなんだろう。
本当に、こいつが愛しくてたまらないじゃないか。
このまま唇の一つくらい奪ってしまおうか。
まぁ、それこそ無粋だろう。
さて、ボクも眠くなってきたし。
そろそろ寝るとしようか。
明日、雫ちゃんやゆりたちがどんな反応するかが楽しみだ。

続く