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表と裏の狭間には 十四話―様々な変革―

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とりあえず今日は難を逃れたようだな。
「ふふ。仕方ないね。今日のところは退散しよう。寝込みを襲ったりはしないから、安心したまえ。」
まぁ、こいつがそう言っている以上、無理やり襲ったりはしないだろう。
「それじゃぁ、ボクは先に入浴を済ませるとしよう。まぁ、これからはより一層よろしくね。」
そう言って、レンは部屋を出て行く。
「やぁ雫ちゃん。どうしたんだい?」
「あ、うん、ゆりさんがお兄ちゃんを呼んでるの。」
「ふぅん。紫苑!ゆりが呼んでるんだって!」
「はいはい、今行くよ。」

事件は油断したときにやって来る。
俺は、この事をすっかり忘れていた。
昨日の夜の一件で、騒動は一通り落ち着いたものだと思っていたのだ。
どうでもいいことだけど。
どうして、ここまで『お約束』な展開になったのか、よく分からない。
まぁ、ご覧頂こう。

翌日の夜。
三連休最終日の夜だ。初日と中日の疲れが溜まっていたのか、不覚にも昼過ぎまで眠ってしまっていた。
その後昼食を食べて、ゆっくりと過ごしていたのだが。
夕食後、ベッドに寝転がって本を読んでいたのが災いしたらしい。
眠くなってしまった俺は、そのまま落ちてしまった。
で。
次に気付いた時は、既に深夜だった。
もうすぐ日が変わるぞ。
あー………。
なんだか、起き上がるのが物凄くだるい。
これは誰でも経験があることだと思うのだが、中途半端に眠ってしまうと、脳が眠ってるのに覚醒するみたいな感じになる。
ボーっとして、何も考えられない。
立ち上がると、ふらふらする。
「あー………っと。まだ風呂に入ってなかったか…………。」
ふらふらとした足取りで、時々壁に寄りかかりながら歩き出す。
「雨………か。」
廊下に出た途端、雨の音が聞こえてきた。
結構本降りのようで、かなり大きな音だ。
しとしと、ザーザー。
そんな湿った、しかし夜は逆に心地いい音が響いている。
そのまま部屋が並ぶ廊下を歩く。
部屋の前を通る度に、違う音が聞こえてくる。
レンの部屋は静かだ。
理子の部屋からはJ-POPが聞こえてくる。
礼慈の部屋は完全に沈黙。
耀の部屋からは軽快なアニソンが。
輝の部屋からは………………。えっと、形容しがたい嬌声が……。ヘッドフォンを着けろ!
煌の部屋からは、映画の爆発音やら俳優の悲鳴やらが聞こえてくる。
ゆりの部屋からは、穏やかなクラシックが聞こえてくる。
個性が現れているなぁ。
などとぼんやり考えつつ、階下に降り。
入浴のため、トイレのすぐ脇のドアを開け、脱衣場に入る。
足元が未だにふらふらしていて、中に入った途端に壁に寄りかかってしまう。
と、風呂場から水音がする。
……誰かがまだ入ってるのか。なら、表で待ってるか…………。
あれ?
洗濯機って、赤色だったっけ…………?
男子の更衣室って、確か…………………………!?
「ゲッ!?」
俺の意識が一瞬で覚醒し、事態を正しく認識したその瞬間。
磨硝子の引き戸が、がらりと開けられた。
うわ、なんですかこのお約束的展開。
半覚醒状態だったとはいえ、あり得ないミスもあったものだ。
「やぁ、夕食の時ぶりだね紫苑。堂々と覗きかい?男子更衣室から覗けばいいものをわざわざ女子更衣室から覗くなんて、勇気があるんだか馬鹿なんだか、一体どっちなんだい?」
唯一の救いはと言えば、相手がレンだったってことくらいか。
「まず一つ。俺は覗きに来たんじゃない。そしてもう一つ。君の裸体なんて今更だろ。」
「ははは。君の言う通り、ボクの体なんて今更感ここに極まれりだね。昔は雫ちゃんも含め、三人で君の家の風呂に入ったなんてこともあったねぇ。懐かしい懐かしい。」
言葉通り恥じらいなど欠片もないのか、隠す仕草もせずに普通に体を拭いているレン。
肌理が細かい肌は絹のようで、体の各所も昔より着実に成長していることが見受けられる。
健康美、とでも言うのだろうか。
ラノベのキャラみたいに不自然に大きかったり小さかったりせず、バランスの取れたバスとや、程よく引き締まったウエスト、年相応のヒップ、ほっそりした脚は脚線美の見本のようだ。
まぁ、高校生二年の平均的な体格、といったところか。
「で?君は覗きに来たんじゃないといのなら、こんなところに何をしに来たんだい?」
「決まっているだろう。風呂に入りに来たんだ。」
下着を穿いた後、ぶかぶかのパジャマを身に纏うレン。
「そういえば、チェックシートには君のチェックがなかったね。ここ数日の疲れで寝オチでもしていたのかい?」
「ご明察だよ。疲労の原因は半分くらいお前にありそうだけどな。」
「それは心外だなぁ。」
「テメェ人にあんだけのことをしておいて、何をしれっと。結構精神が磨り減るんだよああいうの。」
「そうかそうか。それじゃぁ今度から沢山仕掛けて、熟睡したところを頂くとしよう。」
「テメェはよぉ………!」
「心配しないでいいよ。昨日寝込みを襲ったりしないと言ったばかりだろ。冗談だ。」
「ならいいけどね……。」
こいつは、油断ならないからな。
「しかし、何だかんだ言いつつ君は結局ボクの着替えをしっかりと見届けたようだね。」
「あ………。」
気がつけば、レンは着替えを終えて、だぼだぼのパジャマを着終えたところだった。
「結果として、覗きの犯人だね。」
「テメェが恥じらいも何もなく会話をして俺を引き止めつつチャキチャキ着替えるからだろうが。」
「まぁ、今更君に裸を見られたって特に恥じらいは沸かないよ。
まぁ、今更お前の裸を見たところで特に欲情なんてしないが。」
二人の台詞が重なる。
そしが俺たちは可笑しくて、クスリと笑いを漏らす。
雫の体と同じようなものだ。
一緒に風呂に入ったり泊まりに来たりなんて日常茶飯事だったからな。
ま、田舎なんてそんなもんだよ。
「で?君は結局何をしに来たんだい?」
「だから、風呂に入りに来たって言っただろ。」
「そうか。ボクは既に入ってしまったけど、いい機会だし、久しぶりに一緒に入るかい?」
「それもいいな。じゃぁ雫も起こしてきて三人で入るか?」
「いいねぇ。じゃぁ早速起こして来ようじゃないか。」
「と言いたいところだが。」
流石になぁ………?
「俺らの地元の田舎ならともかく。いや、地元でもヤバイか。高校生男女が一緒に風呂って、倫理的とか道徳的に問題あるだろ。」
「それもそうだね。ボクとしては一向に構わないんだけど、それが原因でゆりたちに迷惑がかかってもアレだしね。」
そういうことで話はまとまり、俺とレンは女子脱衣場を後にする。
……改めて考えてみると、何このカオス。
「君はこれから風呂に入るんだろう?出た後はすぐに寝るつもりかい?」
「いや………中途半端に寝ちまったから、今は逆に眠くないな……。」
「そうかい。じゃぁ風呂からあがったら居間に来たまえ。いいものを見せてあげよう。」

雨。
しんと静まった風呂場に、水音と、雨音が反響する。
二つの音が混ざり合い、夜の静けさの中に独特の雰囲気を醸し出す。
「はぁ……………。」
溜息をつく。
その音も反響し、更に独特の雰囲気を深めていく。
色々ありすぎだろ、この引越し。