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表と裏の狭間には 十四話―様々な変革―

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今日の食事当番はレンだったらしい。
古き良き和の朝食を食べながら、俺はゆりに説明する。
「レンは、俺と雫の親友なんだ。修学旅行のときに話した、あの話を覚えているか?」
「ええ。まさか、蓮華がその親友だったなんて………。」
「お兄ちゃん、ゆりさんに話したの?」
「うん、まぁな。」
「ふぅん………。」
雫は何か言いたそうにしていたが、何も言わなかった。
「ま、いいでしょ。良かったわね紫苑、雫ちゃん。それに蓮華も。」
「ああ。」
「はい。」
「そうだね。」
三者三様の返事をする。
「しかし、あたしはそれよりも蓮華が紫苑の彼女だってことが驚きよ。まさかそんな関係だったなんてね。」
「あはは。まぁ、告白したときは、もう親友としてのボクは思い出してもらえないものと思っていたからね。こうして思い出してもらえた事は、嬉しいよ。本当にね。ところで雫ちゃん。」
「な、なに?」
「こうしてボクがレンと分かった今でも、ボクと紫苑が付き合う事には反対かな?」
「………。」
「おい、雫?」
「お兄ちゃんは私のものです。」
「やれやれ。まぁいいだろう。そう答えると思っていた――」
「でも、それがレンなら。」
「――から――今なんて言ったのかな?」
「お兄ちゃんと付き合う相手がレンなら、私には文句はないよ。昔から、お兄ちゃんが付き合う相手はレン以外にあり得ないと思っていたから。」
「ククッ。そりゃどうも。紫苑、これで君も悩みが一つ解決したんじゃないかい?」
「悩み?」
「ボクが君に告白してから、雫ちゃんと君は少々ギクシャクしていたのだろう?」
なんてこった。
全部お見通しかよ。
「ど、どうしてそんなこと!」
雫も驚いている。
「『私以外の女を選んだお兄ちゃんになんか優しくしてやりたくない。でも、やっぱりお兄ちゃんに意地悪はできない』って感じだったんじゃないのかい?」
「はぅぅ………。」
雫は真っ赤になって俯いてしまう。
うん、俺よりも雫のことを分かってるなコイツ。
「じゃ、そろそろマジな話をしようか。君も、ボクに聞きたいこと、あるだろう?」
「勿論だよ!レン、お前あの後どうしてたんだ!?」
「じゃぁ、そこから説明しようか。」
レンは息を吐くと、俺たちを見据えて話し始めた。
「君たちと別れた後、ボクら家族は東京に引っ越してきたんだよ。そしてこっちの学校に通っていた。そして、中学三年生の時、ゆりとクラスメイトになったんだ。」
「そうね。あたしたちが出会ったのはその辺りの時期よ。」
「で、中学卒業の時に、両親が死んじゃってね。うちはそんな裕福じゃなかったから、途方に暮れることになったんだよ。高校の学費は払えても、アパートとかのお金を払うだけど財産がなかったからね。で、ゆりに相談したんだよ。」
「そうそう。それで、彼女をこの家に招待したのよ。」
「あぁー。なるほどなぁ。」
納得した。
そもそもどうして蓮華がゆりの家に住んでいるのかと思ったが、そういうことだったのか。
全く。
合縁奇縁、ここに極まれり、だな。

「君に最初に再会して、君がボクのことを覚えてないと悟ったときは、不覚にもちょっと絶望しかけたよ。」
時と所変わって、俺の部屋。
俺はデスクの椅子に、蓮華はベッドの上に座っている。
今は夕食後。
つまり夜。
雫は自室に引きこもって何かをやっている。
で、俺と蓮華は昔話に花を咲かせていたわけだ。
「いや、それはマジで済まなかった。お前があんなにお嬢様してて、しかも黒髪だなんて思わなかったもんだから。」
「とか言って、どうせボクのことなんて『赤毛であだ名がレン』ってことくらいしか覚えてなかったんだろ?」
「ぐっ………!」
そうだ。
今俺がこいつに関するほとんどのことを知っているのも、こいつという媒体から連鎖的に思い出したにすぎない。
「そ、それに口調だって………。」
「まぁ、学校でこの口調は流石に気恥ずかしいものがあってね。でも、口調の事だって忘れていたんだろ?」
「ぐ……………っ!」
こいつ、ニコニコ笑いながら冗談めかして言ってるけど。
思いっきりネタにしそうな雰囲気だ。
これは、そのうちケーキでも奢る必要がありそうだな。
「結局君にとっては、ボクなんてその程度の存在だったんだねーがっかりだなー。」
「いやそれは………………ッ!」
こいつ、恨んでないって言ってたじゃねぇか!
思いっきりふざけているのは見え見えだが、これを放置したらまずい………ッ!
「だ、だからそれは、ご、ごめん!」
「本当に悪いと思ってるのかなー?」
「勿論だ!」
「じゃぁ、ボクの彼氏として、何かすること、あるんじゃないのかな?」
「は?」
彼氏として………?
何か奢れと?
「今『何か奢れと?』って考えただろ?」
「ぐぐ………ッ!」
こいつには、勝てない。
「そうじゃなくてさぁ?」
レンが立ち上がり、俺の方へ歩いてくる。
自然に。
俺の前に屈みこみ、俺の頬に手を当てて、顔を近づける。
これもまた、自然に。
昔みたいに。
だから、俺は、全く反応できなかった。
「例えばさぁ?ドラマとかで彼女さんが拗ねて騒いでる時、彼氏さんはどうやって黙らせるのかなぁ?」
「テメェ………何のつもりだ………。」
顔が近いぞ。
鼻先なんか触れ合わんばかりじゃねぇか。
「動けないみたいだね?うん?」
「あぁ。つーか無理だろ。」
「だろうねぇ。今なら君を焼いて食おうが煮て食おうが、ボクの思いのままってわけだ。」
「だから、何をするつもりだ……?」
「君ぃ。今は夜で、誰もいない二人きりの空間で、この距離だぜ?いくら鈍感でも、分かるだろ?」
…………チッ。
完璧に、呑まれている。
レンは俺の頬に置いた手を、顎の下まで滑らせると、そのまま俺の顔を少し上に向ける。
立っているレンと、座っている俺の、角度を合わせるように。
そこまでされても、俺は身動き一つ出来ない。
「お前も相変わらずだな。その技。むしろ磨きがかかってるくらいじゃねぇか。」
「褒めてくれてありがとう。でも、君に今そんな余裕があるとは思えないよ?」
息遣いすら感じ取れる距離で交わされる会話。
「まぁ、余裕はないわな。今俺は身動きが取れないしな。なにをどうされようと俺には抵抗出来ないわけだ。って、まさか殺すつもりじゃないだろうな?」
「そのボケはちょっと評価低いよ。というかいい加減諦めなよ。」
こいつは………。
諦めろって。
「今ここでどこまで進むかい?」
「とりあえず保留してくれないか。というか君はいつから工藤愛子キャラになった?」
「うーん、今、かな?これでもボクは大分恥ずかしいんだよ?」
「俺はその倍ほど恥ずかしい思いをしてると思うんだが。」
「その割には眉一つ動かさない、か。やっぱり相変わらずだねぇ。」
「人のこと言えた義理かよ。」
レンの表情も、ほとんど動いてない。
にこやかな笑顔のままだ。
「ボクとしては、このまま君をボクのものにしちゃいたいという気持ちはあるんだけどねぇ。」
「まぁ、好きにしろよ。」
「でも、それをやっちゃうと色んな所の色んな関係に亀裂がバリバリ入っちゃいそうだしね。なにより、タイムオーバーだよ。」
レンがそう言うと同時に、ノックの音と、『お兄ちゃ~ん』と俺を呼ぶ雫の声。
相変わらず、気配に聡い奴だ。