不思議な空間
「食べきれないわね!」
女性たちは嬉しい悲鳴というわけである。
「いただきます」
それぞれが食事を始めた。
「遅くなりました」
先程の髪の長い女性が北の隣に座った。着替えてきた花柄のマキシ丈の衣服は、優雅な趣と優しさを感じさせた。美しい髪は後ろでまとめている。
「北です。最高の露天風呂だったでしょう」
彼の表情は歓喜にあふれていた。
「その通りでした。わたし、並木です。すてきな夕陽に感動しました」
「そうですか。きれいな夕陽を見られてラッキーでしたね」
「佐島善三です。普通の佐藤の藤が島という字です。それと、善悪の善と数字の三です。よろしく。並木、何とおっしゃるの?」
「祥子です。吉祥寺の……」
北の両側から、ことばが往復する。
「吉祥寺に住んでるわけじゃないんですね?」
「違います」祥子は笑った。
「あのう、わたしたち吉祥寺から来ました」
「そうですか。そんな気がしてましたよ」
髪の長くない女性たちは笑った。