不思議な空間
囲炉裏を囲んで
夕食の場所は中央に囲炉裏のある板敷きの部屋だった。壁も天井も板張りで、木の香りが色濃く感じられる。既にその上に料理が並ぶ五人分の膳と座布団が、火が入っていない囲炉裏を囲んでいた。
厨房へ行ってひげ面の主人に、どこに座れば良いかを尋くと、
「お好きなところへどうぞ。全部お料理は同じです」
にこやかで優しそうな主人と、北はもっと話をしてみたいと思った。厨房の奥からやはり笑顔で挨拶した女性は、主人より大分若い感じだった。
囲炉裏の部屋に戻ると三人が着座していた。丸顔の男は最も奥にいる。ふたり組の女性たちはその左隣に座って相変わらず何やら話に夢中だった。北は丸顔の男の隣に腰を下ろした。
「佐島です。よろしく」
丸顔の男の横には、一升瓶が置かれていた。
「北です。よろしくお願いします。湯飲みでももらってきましょうか?」
「ありがとう。でも、食後でいいでしょう」
「そうですか?お茶を飲んだらそれを使えばいいんですね」
膳には蟹の刺身があった。鍋が固形燃料の入ったコンロの上にある。小鉢と煮魚。蟹のサラダ。ほかに茶碗蒸し、焼き魚、天ぷらが来た。夫婦と女子高生くらいの娘が忙しく運んでくる。
「このいいにおいは焼き蟹の香りですか?」北はそう尋ねた。
「そうでしょう。食欲が高まりますねぇ」
中年男は眼を細めた。間もなくそれが運ばれてきた。