不思議な空間
「俺も偽作家が現れるほど、メジャーになりたいね」
「頑張ってください。この民宿を舞台にする、というのもいい考えでしょう?」と、北。
「だったら、ちょっと説明をさせてください」
宿の主人はひげを弄びながら云った。
「ここの特徴ですか?」
「はい。ここの周りには電柱がないんです。ソーラー発電と風力発電と、あと仕方なく発電機を回すこともあるんですが、電力会社から電気を供給されてないんですよ。昔は『ランプの宿』ということで、テレビが取材に来ました」
「あっ!テレビで見たような気がします。温泉も完璧に天然ですね?」 と、北。
「勿論そうです。米、野菜も自家栽培だし、蟹や魚も自分で漁に出て賄ってます」
「だから安くて新鮮なんですね。来年も必ず来ますよ」
左島がそう云うと、ほかの宿泊者も賛同した。
「是非、お願いします」
主人は頭を下げてから、
「最後に蟹雑炊を召しあがってください」
そう云って厨房のほうへ行った。
「今夜は愉しかったわ」と、聖子。由紀も笑顔で同じことを云った。