不思議な空間
面白い話
「ひどい偶然を思い出しましたよ。或る女性を映画に誘ったら断られたんです。ところが、誘った映画を上映している映画館で会ってしまったんです」と、北。
「ほかの男とデートだったんだ!」
「そうなんですよ。こっちは同性の友人と行ったんです」
佐島が云った。
「だけど小説の読者はね、偶然を嫌うんです」
聖子は不服を顔に表した。
「そうですか?偶然が物語を左右することはかなり多いと思いますよ」
「私はなるべく偶然に頼らないことを心がけています。現実は、偶然のドラマが多いんですけどね」
「面白い話をしましょう」宿の主人が話し始めた。
「三箇月くらいものあいだ、小説書きが逗留したことがあるんです」
「ここにですか?」と、驚いている佐島。
「はい。有名な小説家だと、その名前を見た家内に教えられました」
「そうなんですか。誰?」と、由紀。