不思議な空間
「どうぞ。話して」と、聖子。
「わたしは郵便を配達してるんです」
「郵便局の中の仕事をしてるんだと思ってました」と、由紀。
「雨の日は大変ですね。車で?」
「バイクです。去年の秋に、暴走族のバイクと出会いがしらに衝突してしまって、相手の男性は見た感じ怪我はなかったんですが、鞭打ち症で全治一箇月だというんです」
「祥子さんは無事だったんですか?」
北はそれが何より心配だった。
「おかげさまで、わたしはちょっとすりむいた程度でした。問題は相手の男性です。その日から脅迫電話が毎晩かかって来たんです」
「それはひどいな。任意保険は?」
北はいたたまれない想いだった。
「バイクの修理代と治療費、休業補償、慰謝料も保険会社から支払われたんですけど、それだけでは気が済まないと云うんです」
「どのくらい請求されたんですか?」
「百万円です。そんな大金はないし、家に火をつけるとか、誘拐されてもいいのか、なんて……毎晩の脅迫電話のためにわたし、ノイローゼみたいになってしまったんです」