不思議な空間
聖子は途中から泣きそうになりながら歌った。聴いていたほかの五人も眼を潤ませた。佐島が聖子の傍に行って握手を求めた。
「この歌は知らなかったな。いい歌をありがとう」
祥子が泣いているのに気付いた北が云った。
「いい歌だったね。祥子さんもおばあちゃんと同居?」
北がそう尋くと、祥子は泣きながら応えた。
「今年の春、わたしのおばあちゃんも、亡くなったんです」
祥子のまぶたから更に涙が溢れでた。北は嗚咽する祥子の手を握った。
「祥子さんもトイレを掃除して、べっぴんさんになったんだな」
佐島がそう云った。
「じゃあ、いい歌のあとですが……オカリナをやりますよ。『もののけ姫』です」
宿の主人はいつの間にか大きなオカリナを手にしていた。透明感のある、哀愁を帯びたメロディーが流れだした。素晴らしい演奏である。それを聴くと祥子は更に激しく泣いた。
オカリナは素晴らしい音色だった。かなりレベルの高い演奏が終わり、盛大な拍手が湧き起こった。
「おばあちゃんと、一緒に観た映画でした」と祥子が涙声でやっと云い「おばあちゃんの想い出、聞いてください」
北は手をはなした。