不思議な空間
「……ほほう。これは、素晴らしい。凄い絶景だ!」
「これだけの景色は期待してなかったので、かなり得をした気分ですよ」
北も笑顔になった。
「湯加減も、実にいいですね」
「はい。ちょっと熱めで、文句無しです」
「これで食事が良かったら最高ですがね」
「蟹尽しということでしたね。でも、安い宿泊費ですから、期待し過ぎないほうがいいでしょう」
「まあ、そういうことですね。虫のいいことを云いました」
男はやや気落ちした表情になった。
「期待するなと云うのも酷ですが……」
「……飲まれますか?」男は笑顔を取り戻した。
「付き合い程度ですけどね」
「持ち込みは拙いのかな?」
「大丈夫です。確認しました」
「じゃあ、結構お好きなんですね?」
身を乗り出して笑った。
「嫌いではありませんよ。でも、酒豪ではありません」
「私も酒豪ということはありませんけど……お幾つですか?」
「三十六です」