不思議な空間
「寸暇を惜しんで読んで書いていたんだ。食事中も勉強のために本を読んでいたし、カミサンが何か相談してきても書き続けてたよ」
「そんなに面白いんですか?」と、北。
「中断させられるのが怖かったのかも知れない。ペダルを漕ぎ続けないと転倒するという危機感」
「自転車操業みたいですね」
「気分的には同じようなものかな?」
「食事しないと動物は餓死するというのと同じ、ではないわね」と、聖子。
「どうだろう。餓死は大げさだろうね……」
「ねえ、北さんの初恋は?」
顔が酒のせいで紅い祥子が、絡みそうな様子で尋ねた。
「初恋は遅いほうでしょうね。高校生のときだったから……」
「わたしは、記憶ないの。これからなのかも」
と、由紀。
「相手は?」
祥子は北を凝視めながら尋いた。
「……友だちの妹」
「そういうのって多いでしょう」
と、聖子は云い、そのあとすぐにまた酒を口にした。