不思議な空間
「何年くらい前からですか?」
「かれこれ十年ですかね」
「愉しみねぇ」と、聖子。
「期待しないでください」
「リクエストしてもいいでしょうか」
北が云った。
「レパートリーは少ないから……」
「簡単な唱歌で、いい曲があるんです」
北はすぐに題名が思い出せなかった。
「もしかして、『浜辺の歌』じゃないか?」
「それもいいですね。聴かせてください」
「実は、それしか奏けないんだ」
「あれはいい曲ですよ。好きな曲です」
「佐島さん。頑張って!」祥子が云った。
「お願いしますね」と、笑顔の聖子。
由紀も同じことを云った。