不思議な空間
漸く佐島はチューニングができたらしい。すぐに演奏を始めた。
北はその音量に圧倒された。佐島はなかなか抒情的に、達者に演奏した。聴いていると、浜辺の情景が心に浮かんだ。
「はい、終わり。まあまあだったかな」
四人が拍手をした。祥子は涙を見せていた。感激し易いのかも知れない。
「すてきでした。心に浸みました」
「ありがとう」
「音程もいいし、ビブラートなんかも想像以上にちゃんとしてましたね」そう、北が云った。
「練習したからな」佐島はつぶやくように云った。
「本当に一曲だけなんですか?」と、由紀。
「そう、瞬間芸だね」佐島は笑った。
「レパートリー増やしてください」と、北。
「バッハの無伴奏チェロソナタは一生かかっても無理だな」
「何だっけ……そうだ『早春賦』なんかどうですか?」
北は漸く思い出して云った。
「来年またここに来て演奏しよう」